1章

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6  中はひんやりとして涼しかった。床は黒と白のチェス盤柄になっていて、横には巨大なコート掛けが置いてある。もっと奥の方には、緑色の螺旋階段が2階へと続いている。私の部屋の3倍以上あるこの空間が、どうやらこの邸宅の玄関らしかった。  執事は会釈をすると、奥の方に下がって行った。チェス盤柄の玄関は、廊下までがゆっくりとした坂になっていて、奥の方は木造りの素敵な洋館の廊下にいる。  私はしげしげと内装を見渡しながら待った。邸宅の中はしんと静まり返っている。  ひとしきり玄関を見て好奇心を満たすと、私は不安になった。なんて言って帰ろう。こんな素敵なところが、ハッカーの本拠地ということはあり得まい。  私がスロープの坂を足でいじって遊んでいると、奥から音もなく執事さんが帰って来た。 「お待たせいたしました」  執事さんは笑顔だ。 「主人がお待ちです。奥へどうぞ」  お待ち? 何かの間違いだろうか。 「あの、すみません。何かの間違いじゃあ……」 「いえ、あなたがここに来ることは、わかっていたそうです」 「わかっていたって……」 「あなたをここに呼んだのは、ご主人様ですから」 「まさか」  私はごくりと喉を鳴らした。どうやら、この邸宅の主人こそが、あのはた迷惑な赤いウイルスの作成者らしい。もはや間違いない。そしてもう退路はなさそうだ。  案内されるまま、私は道中の時計を見た。時刻は午後17時。締め切りの日付が迫っている。  邸宅の中には、豪華な調度品が並んでいた。どう見ても日本の家ではない。廊下の間取りはとても広くとられているし、廊下の行き止まりには、謎の棚とか置時計が置かれている。壁紙は、緑と深緑色の複雑な、おとぎ話に出てくるような模様をしている。 「こちらでございます」  執事さんが、歩むのをやめて大きなドアの前で立ち止まった。扉の中に向かって、凛とした声を張り上げる 「リュート様。お客様をお連れしました」  リュート? こんなところに住んでいるのは、やっぱり外国の人間なのだろうか。考える間もなく扉が開かれたので、私は促されるままに部屋に入った。  高い天井だ。そして広い部屋だ。壁には、何かの大きな絵画が何枚もかかっている。一番向こうには大きなカーテンと、その前に高級そうな机があって、その向こうに一人の人物が腰かけていた。 「ようこそ」  私はその顔に見覚えがあった。 「朝倉相馬さん……」
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