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猫の手も借りたいっていう表現、あれ変だと思うの。
だって、猫の手が役に立つかどうかは、場合によるでしょ。
私は猫だ。齢にして2歳。
先月から女子高生に化けて、「伊端 珠」という名前で人間と一緒に学校へ通っています。
理由は、楽しそうだから。
ねえ、知ってますか? 人間ってやたら、身体を動かすのが好きみたいなんです。
運動するための時間を、わざわざ「体育」っていう授業として設けているくらい、人間は運動が好きらしい。私たち猫からしたら、そこら辺を駆けまわったり、動くものを追いかけたり、それくらいの運動なんか言われなくたって毎日やっているんですけどね。
でもあれですね、体育の良いところは何といっても、皆と一緒に身体を動かせるところですよね。
前に授業でフットサルがあった時、つい四足歩行でボールを追いかけそうになってちょっとひやひやした事がありましたが、それもあんなに大勢の人間と一緒にボールを追いかけたことなんてなかったから、つい興奮しちゃって。危うく猫だってバレるところでした。
猫の私が人間のスポーツで活躍できるかどうかは、種目によります。
自分で言うのもなんですが、体力とか瞬発力は基本的に人間よりもある方だから、走る系の競技では活躍できる自信あります。短距離走なんかは、得意中の得意。
それから、跳躍。走高跳なんか、ちょっとフォームが独特になっちゃうけど、記録はクラスの中でも余裕で上位です。
それから、ボールを追いかける競技。これなんか、猫の十八番ですね。伊達に人間の4倍の動体視力してません。さっき言ったフットサルなんかも、我を忘れて「野生の走り」を出したりさえしなければ、人並み以上に活躍できます。猫だけど。
……ただ、ボール競技の中でも得意不得意はあります。
例えばバスケットボール。あれ苦手です。ボールを「掴む」っていう動作にまだ慣れません。
追いかけて蹴っ飛ばすだけなら得意なんですが、パスを受け取ったりネットにシュートしたり、そういうのは私には向いていないみたいです……。
それから同じ理由で、卓球も苦手。ボール自体は目で追えるから反応はできるんですが、ラケットがうまく握れなくて。降った時にいつもすっぽ抜けそうになって、それで反応が遅れちゃうんですよね……。
それから、女子は選択でダンスがあるんだけど、あれもちょっと苦手です。音楽に合わせて動くっていうのが、楽しいんだけどなかなか上手くできなくて……。グループで踊る時とか私だけリズムが合わなくて、なんというか、お恥ずかしい……。
でも大丈夫。ちょっとくらい上手くいかなくても、クラスの皆がフォローしてくれるんです。
バスケの時も、チームの子が私のミスを拾ってくれたり、卓球の時は私が下手なのを知って、相手の子が心なしか手加減してくれたり。ダンスの時なんか、ダンス部の子たちがつきっきりで指導してくれたりして、そのおかげで大分コツが掴めてきました。
皆、本当に優しいクラスメイトばっかり。
その分、私が役に立てる時は、皆の分も張り切って活躍していく所存です。
まだまだ非力な私ですが、この猫の手が少しでも皆の助けになれば、光栄です。
* * * * *
放課後。1年C組の教室で、クラスの女子数人が話をしている。
「……ねえ今日さ、5時間目、体育だったじゃん」
「うん。ダルかったね」
「でさ、私、準備体操の時、珠ちゃんとペアだったの」
「マジで! いいな~」
「あんな美少女とペアとか、犯罪ですぞ」
「でねでね、その時気が付いたの。珠ちゃんね……」
声を潜めた後、その女子は囁く。
「めっちゃくちゃ、身体柔らかいの……」
一瞬、静まり返る教室。そして、
「さすが猫~!!」
たちまち沸き立つ一同。
「開脚で前に倒れる時とか、ぺった~なの! もう、ぺった~なの! 幼少期から新体操習ってた? ってレベルで身体柔らかいの! あれが生まれつき備わってるとか、マジで猫って羨ましいわ~」
「完璧な開脚で柔軟体操してる珠ちゃん、尊い……」
「あとさあとさ、こう背中合わせになった状態で腕組んで、相手をおんぶするやつあるじゃん? あの時、珠ちゃんの身体さ……」
「まさか……」
「伸びるの!」
「猫~!!」
「猫の身体が尋常じゃない位伸びるって、あれ本当だったんだ!」
「まさか人間に化けた猫で実感することになるとは思わなかったけども!」
「骨格どうなってるんだろうね!」
「しかもさ珠ちゃんさ……マジか? ってレベルで身体軽いの……」
「マジか~!!」
「人間だったら心配になるけど、猫なら納得!」
「むしろ健全!」
「今日も健やかな、我々のアイドル……」
「それでお主……珠ちゃんと密着した時の感触はどうだったのかね?」
「知りたいか」
「知りたい」
「教えぬ」
「ふざけんな!」
「珠ちゃんの感触を独り占めしおって!」
「お前、男子だったら即刻通報だぞ!」
「今後あんた、珠ちゃんとペア組むの禁止な」
「ちょっと、何それ!」
「次は私だから」
「いや何勝手に決めてんの。出席番号的に、私の方が可能性高いし」
「そんなの関係ありませ~ん。誰よりも早く近寄って、珠ちゃん、一緒に準備体操しよ? って誘っちゃえばこっちのもんで~す」
「そんな事言ったら、私らもそうするよ」
「これは次回の体育の時間、珠ちゃんを巡ってキャットファイトが起こりそうな予感」
「猫を巡って、キャットファイト」
「尊い」
「尊いな」
彼女らは1年C組。
とある猫がこっそり通う教室の、クラスメイト。
今日も本人に知られることなく、伊端珠を愛で続けている。
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