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社に戻り自分の席にどかっと座り大きくため息をついた。
「しけた面してんなー。出先で何かあったのか?」
と、声をかけてきたのは俺と同期の三木志朗。ワイルド系イケメンだ。
営業成績もよくて女にももてて入社当時はライバル視してたけど、こいつは性格もいいし意外とオカンタイプだったりもして何かと世話になっていて、今では一番の友人だ。
「うーん……」
と口ごもる俺に社内ではまずい内容なのだと察知し、酒を飲む手ぶりをする。
「一杯行くか?それちゃっちゃと書いちゃえよ」
「すぐ書く!」
*****
俺は速攻報告書を書き上げなじみの居酒屋へと三木と二人で向かった。
「―――んで?」
「取引先の社長の息子が煩わしい…」
テーブルにつっぷして言う。
「は?なにか?お前に無理難題ふっかけてくるのか?パワハラか?」
「いや、そういうんじゃなくて、なんでか食事に誘おうとするんだよ。断ってもことわっても懲りもせず毎回」
三木の眉間に一気に皺が寄った。
「―――セクハラ…か?」
「うーんそういう感じでもないんだけど、やれ夜景がきれいに見えるレストランだとか酒がおいしい料亭だとか…肩凝るだけだっつーの。食事って何を食べるかとかどこで食べるかっていうのも大事だけど、一番大事なのは誰と食べるかだと思うんだよね」
「ふはっそりゃそうだ。じゃあ俺は朝日的に合格ってことか?」
「まぁ、ね」
三木はにかっと笑って、嬉しそうに俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「おい!やめろよ!ぐしゃぐしゃになる!」
「ふははっ」
いつまでも止めないもんだから俺も三木の頭をぐしゃぐしゃにしようと手を伸ばした時、視界の端に何かをとらえた。
―――――ん???
ぎぎぎっと壊れた人形のように頭を動かし店の外に視線をやって、固まってしまった。
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