申し訳ございません。あいにく先約がございまして。

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多岐悠吾が店の窓にぺったりとはりついてこちらを見ているではないか。 「――――え」 俺は急いで視線を逸らした。 そんな俺の様子を不審に思い三木も窓の外を見た。 「――――知り合い…か?」 「件の取引先の……社長の息子…」 「―――ふむ」 三木は少しだけ思案するそぶりを見せ、徐に立ち上がった。 「え?三木?」 「まぁいいから任せとけって」 綺麗なウインクを一つ残し外に出て行った。 三木を目だけで追っているとあろうことか多岐と接触を図っているのが見えた。 二人は二言三言言葉を交わし、連れ立って店内に入って来た。 おいおい…どうすんだよ……。 面倒事はごめんだぞ…。 「あの―――日下さんこんばんは。こちらの方が是非ご一緒にということなので厚かましくも来てしまいました。お楽しみのところ申し訳ございません」 多岐はそう言うと綺麗にお辞儀をした。 一目で仕立てがいいと分かるスーツに育ちのよさが伺える所作。 こういう場所にはすごく不釣り合いで浮いて見えた。 「あ、いえ……。どうぞ…」 ここまできて帰れなんてことはさすがに言えないので座るように促した。 俺の横に座ろうと多岐が動こうとしたがすかさず三木が俺の隣りに座ってしまった。 そして前の席をさして「どうぞそちらへ」と笑顔で言った。 多岐は戸惑いつつも俺の前の席に座った。 「…………」 流れる沈黙。 沈黙を破ったのはコミュ力の鬼の三木ではなく勿論俺でもなく、多岐だった。 「日下さんは、こういうところがお好きだったんですね…」 「えーと、はい。基本こういうところしか行きません」 多岐は興味深げに店内を見回し、「じゃあ……今度は…」と小さく呟いた。 「朝日ごみついてるぞ」 普段とは違う呼び方で俺を呼ぶ三木。 少しどきりとする。 三木がそう言って俺の髪の毛を撫でた。髪に着いたごみを払うというより撫でると表現したほうがあっていた。 「あり、がと」 甘さを含んだ三木の仕草に頬が自然と赤くなった。 その様子をただじっと見つめる多岐。 三木は俺に自分の肩をくっつけて頭を摺り寄せたり、わざと耳元に口を寄せ囁いてみたり、少し甘えるような仕草を見せた。 なんか今日の三木は変だ。これって、これってまるで恋人同士のような…? 三木だから何か考えがあってのことなんだろうけど…。 こういうのは慣れない。おまけに多岐も見てるじゃないか。 やめてほしい…。 いたたまれなくて俺は俯いた。 「――――あの、日下さんが困ってるように見受けられるのですが…」 多岐だった。 「あぁすみません。つい、いつものくせで。人に見られるのは恥ずかしいのでしょう」 と三木は爽やかな笑顔をみせて佇まいを正した。 それから俺たちは酒を飲みながら色々と話をした。 意外にも多岐の提供する話題はおもしろく、その話し方は穏やかで心地いいものだった。 一時間程たって三木が明日早いということで解散となった。
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