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「日下さん、今日これから…」
「申し訳ございません。あいにく本日これから先約がございまして…」
相手が言い終わる前にお断りする。笑顔で、丁寧に、有無を言わさず。
「では、本日はありがとうございました。失礼いたします」
逃げるが勝ち。
俺は45度の最敬礼をしたあとそそくさとその場を去った。
俺の名前は日下朝日事務用品の営業の仕事をしている。
さっきのは取引先の社長の息子多岐悠吾。
もう何度目の誘いになるだろうか。
なぜか俺に懐いているようで、やたらと食事に誘ってくる。
いや、ちょっと待って?俺は30歳の男で容姿だってとりたてて美人ということは決してない。可もなく不可もなくって感じだ。
かたや多岐悠吾は綺麗な顔をしていて、社長の息子だから金持ちだ。
そして、やつも俺と同じ男だ。
男の俺をなぜそんなに食事に誘いたがる!?意味がわからない。
性格は……よくわからないが女にもてないわけがない。どんな女でもいちころだろうに、なぜ俺なんだ?
あ、いや、そうか。女じゃだめなのかもしれないな。色々面倒なんだろう。
それなら男でもいいから誰かと食事したかった、とかそういう感じか?
友だちいねーのかよ。さびしんぼかよ。
俺だって取引先の営業マンってだけで友だちでもなんでもねーだろうに。
はぁ……本当まいる。
――――面倒ごとはごめんだ。
俺は眉間に皺を寄せ歩くスピードを上げた。
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