ある昼と夜の狭間

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 昼と夜の間。私は木でできた平らで短い橋の上に立って、夕日を見つめていた。  空はきれいなオレンジ色で、太陽はもう少し濃いオレンジ色。遠くには適当に配置されたような低い山々が連なっている。橋の下を緩く蛇行する川には黄色っぽい光の粒がチラチラしていた。  小さい頃は夕方の赤い景色が何となく怖かったけれど、私はこの時間を案外気に入っているらしい。  サティ:ガーリー塩見発見 😃  唐突に、視界の右上にメッセージが表示された。近くにいる相手に送ることができるDM(ダイレクトメッセージ)だ。  私はVRゴーグルを意味もなく触ると、仮想現実の夕方の世界で振り向いた。  三角屋根の家が集まる村の中心部の方から、3頭身の女の子キャラクターが小走りでやって来る。頭に猫耳のフードをかぶった黄色い服のアバター。DMを寄こしたサティことクラスメイトの佐藤優奈(ゆうな)の分身で間違いない。 「だからその呼び方……」  ボソッと呟くと、それが音声入力で右上に書き込まれた。三つ編み・ワンピースのアバターにしたらこの調子である。  サティ:笑  千佳:😕  隣に立ったサティのアバターは通常時の微笑み顔で私を見ていたが、クルッと回って夕日に目を移した。モクモクした細い雲が左右に規則正しく揺れ動く空。太陽は直視しても全くまぶしくない。そんな簡素なCGで作られた風景のもと、アコースティックギター風のスローなBGMが穏やかに流れている。  
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