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タバコがうまい
「ピュグマリオンって…なぜ、なぜピュグマリオンなの?」ママは意味ありげに一瞬間を置いてから「アナタノメ、トテモサビシソウ、ダッタ。オモテデタバコスッテタトキネ。ココロモ、ヨクボウ…モ?」そう告げてはまたこちら向きに前かがみとなりカウンター下の冷蔵庫から何かを出すようだ。その折りのドレスの隙間がたまらない。乳房の感触がグラスを持つ指によみがえる。それを揺らしながら『俺の目が寂しそう…か。そうかな。しかしそれがなぜピュグマリオン…?』などと思う内にママが小さな板に載せたチーズとチョコレートのオードブルを俺に差し出す。「サービスヨ」とウインクしたあとで「アナタ、ピッタリノオンナノヒト、イナイデショ?サビシイッテ、メガイッテタヨ」確かに前述した通り俺は独身で女もいない。しかしここ何十年来のわが政府によるデフレ政策のお陰だろうが俺のような身の上は今日日めずらしくもなんともなく、すればママが云う〝サビシイ〟やつは巷にゴロゴロいるだろう。なぜ、俺なのか。ウイスキーで喉を湿らせた俺は習慣のようにわかばを一本取り出しては口に咥えた。間髪入れずにママがライターの火をつけて寄越す。マルマンのバロックだった。カウンターの内側の手の届くところに常時置いているのだろうが、一昔以上前の骨とう品に近いライターだ。売ればいい値が付くだろうに。そのライターのせいか不思議なものでママの火によるタバコはとても旨くなる。
【チーズとチョコレートのオードブル、サービスの一品だそうだ】
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