貮ノ書

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龍はゆっくりと目を開き柴間を見ると、口を開け言った。 「久しぶりだな新。しかし、こんな廃れた神社に呼び出して、どうした」 初めて目にした十二神将の青龍に、田路は驚きのあまり、声を出せずにいた。 「柴間さん、十二神将の青龍が切り札なんですか?」 まるで子供のように目をキラキラさせ、柴間を見る田路。 「いや、青龍じゃない。青龍よりも手の付けられない奴だ」 「あの酒飲みを呼ぶのか」 「ああ……青龍、あんたに頼みたいのは祓いの手伝いだ」 「新よ、お前は強制祓いは嫌いだったろう。己の陰陽道を見直したのか」 「誰が強制祓いをしろと? お前の仕事はただここの怪異を弱らせる。それだけだ」 柴間がそう言えば青龍は、大口を開き、大きな声で笑った。 「そうムキになるな新よ。お前の思考は嫌という程聞こえてる」 柴間と式神は契約上、お互いの意思を脳内で伝えることが出来る。それが彼が考えた意神契約(いしんけいやく)だ。 あまり離れすぎていなければ、言葉なしで命令をする事が可能で、相手の怪異に作戦がバレることが無いのがメリットだ。 けど、逆に常に意思が式神に筒抜けな為、式神に対しての負の感情が相手に伝わることがデメリットでもある。 基本無心の柴間からしたらメリットだらけだが、意神契約を持続させる為の霊力が大きく、式神を使ったあとは疲労感がすごくなる。 「なら聞くな。あと二体こちらへ呼び出す。仲良くしろよ」 「わしと相性が良ければな」 青龍は木系の式神。火系の式神を呼び出してはこちらが不利になってしまう。素早く、水、土の式神は。 柴間は考えながら古びた手帳の和紙をペラペラとめくっていた。 該当するページの和紙を一枚破り、血を染み込ませ召喚の呪法を唱える。 「汝よ我を守り、我を導け。犬神白澪」 柴間の目の前に白澪が現れた。 (上位式神二体……祓いをするのに使う霊力を残しておきたいからな。三体一になるがそれでもこちらが少し有利。もう一体はいらないか) そう思いながら柴間は手帳をコートの内ポケットにしまった。 「連続で呼び出してどうしたのよ新……って青龍様」 「白澪か。木系と水系、相性はいいな」 「白澪、青龍と一緒に怪異の動きを止めてくれ」 「わかったと言いたいところだけど、その肝心の怪異はどこなの?」 白澪がそう聞くと同時に小さな本殿(ほんでん)の中から、赤色のワンピースを着た女性の怪異が現れた。 「あまり強そうじゃないわね」 「わしらを呼び出しておいて、これだけか」 圧倒的な霊力の雰囲気とは違うと直感的に俺は思った。 柴間は呪符を一枚だし、赤色のワンピースの怪異に向かって投げた。 「束縛呪法、縛四方(ばくしほう)」 呪符は四方四枚に破れ、光の柱を立て、怪異の身動きを取れなくした。 柴間は脳内で青龍と白澪に、攻撃をするよう指示を出す。 「よくやった新」 青龍はそう言うと周りの樹を操り、怪異に向かって鋭く伸ばした。 「届かない……風騒(ふうそう)」 耳に残るような不気味な声で怪異は霊術を唱えると、樹は強風の盾によって粉々に砕けた。 「ただの怪異じゃない」 柴間は怪異の霊術を見てそう言った。
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