貮ノ書

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互角かと思ったその力の均衡は、時間が経つにつれ、酒呑童子有利になりつつあった。 相変わらず酒呑童子は楽しげに怪異との闘いを繰り広げていた。 だが、怪異は呪力が底をつきそうなのか、立っているのがやっとの状態で、酒呑童子の体術を躱し、反撃をしていた。 「傷はどうだ……白澪」 「止血はできたわよ。一時的にだけど」 「それなら大丈夫だ」 柴間は重たい体を起こし、その場に立ち上がった。 刺すような痛みと、傷口が焼けるような感覚に襲われながらも、彼は怪異を鎮めるため酒呑童子の元へとゆっくり、近づいて行く。 「柴間さん! …………気をつけて」 不安そうな表情で田路はそう言った。 まるで俺が戦争にでも行く人みたいだな。と心の中で思いながら、柴間は指示を出す。 「青龍、白澪戻れ」 「無理はするな新」 「ジャーキー二倍よ」 次第に二体の体が薄れ、消えた。 その途端に二体の呪符が真っ二つに破れ、燃えていく。 「田路、飯沼孝介(いいぬまこうすけ)は見つかったか?」 本題である飯沼孝介の救出の為、田路は擬人式神を作り出し、視覚を共有して神社の敷地内を捜索していた。 擬人式神は呪力の弱い田路にでも操作、作り出すことが出来る初心者向けの式神でもある。 柴間は背を向けたまま田路に指示を出す。 「お前の目でも見えないなら、あの怪異が強力な結界を張ってるんだろうな」 「なら結界を破れば……」 痛みで柴間の足が震える。 今にも倒れて、意識を失いたいと思いながらも柴間は、田路にアドバイスを投げる。 「その結界自体が見つけられてないのに壊すのは無理だ。まずは式神をしまって霊力をコントロールして目に集中させろ。そうしたら見えるだろうな」 「霊力をコントロール……僕まだ半人前です。そんなことできるんでしょうか」 そんな事を言い出す田路に対して柴間は、田路に聞こえない小さい溜息を吐いた。 自分の才能に自信がなく、弱気の田路の元に柴間は痛みを我慢し歩み寄った。 そして彼は田路の肩に優しく手を置く。 まるで子供を勇気づける親のように、柴間はこれまでにないような笑顔で田路を勇気づけていく。 「お前ならできる。俺の助手兼弟子のお前なら」 初めて見せた笑顔に田路は、目を点にしながらも弱気だった気持ちが吹っ飛んだのか、田路も笑っていた。 「柴間さん、僕やります。必ず飯沼君を見つけてみせます」 そう言うと田路は神社の奥の竹藪へと消えていった。 田路の背中が見えなくなるのを確認し、柴間は悲鳴をあげる体に鞭を打つように酒呑童子の隣に立った。 「新、死にそうじゃねェか」 「お前の方こそ、酒が切れて半ギレじゃねぇか」 「酒より美味いものはないからな。女を喰ったとこで喉の乾きは満たされない。酒は万能薬だ! 喉も潤うし、気分を良くさせてくれる」 両腕を広げバカ笑いをする酒呑童子を無視し、柴間は呪力をコントロールすることに集中をした。 自分が無視されたと気づいたのか酒呑童子は舌打ち混じりにぶつぶつと何かを言っていた。 その声は小さくて柴間の耳には届かなかったが、思念を共有している為、それが彼への文句だということに柴間は気づいていた。 「そんな小言より目の前の祓いに集中したらどうだ」 「そうだな。で、殺さずに祓うってまだ、こんな状況で言ってるなら、策は思いついたんだろうな」 柴間はただという言葉を脳内に思い浮かべる。 意思共有で聞こえてきた言葉に対し、酒呑童子は驚きながらも薄ら笑みを浮かべていた。 「だが、相手は堕ちても神。祓いは無理、清めるって言った方が正しいか」 「なら、さっさとやれ。(おれ)はその間、神サマと遊んでやるから」 アドレナリンなのか、いつの間にか痛みは気づけば無くなっていた。 柴間はいつも通り、寝癖のついた髪をめんどくさいというような顔でかいた。
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