貮ノ書

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遠くの方から、柴間の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。 耳をすませば、その声の主が田路だとわかった。 「柴間さーん! 良かった、怪異を祓えたんですね。こっちも飯沼君を無事見つけましたし、新井君達も来ましたよ」 「祓っては無い。これで全員揃ったわけだな。それで、飯沼は無事か?」 鳥居の方から田路とおぶられた飯沼、他の元凶三人組が歩いてこちらに向かってきた。 柴間は田路に声をかけながら、田路の背中で疲れきった表情で眠る飯沼に目線を移した。 「寝てるようだな」 「このガキ達が今回の元凶か?」 ジロジロと疲れ果てたような顔をする三人組の顔を食い入るように見る酒呑童子。 怪異が見えている新井とまだ、怪異に取り憑かれている菅谷は、怯えながら俺の元に走ってきた。 何が起こっているのか分かっていない櫻井は、いきなり走り出した二人を追いかけて、柴間の元へ寄ってくる。 「そうからかうな酒呑童子。お前がいると新井達が怖がる、いいからお前は帰れ」 「別に減るものもねぇんだこっちにいてもいいだろ。別にお前の呪力を使って来ている訳でもないし」 空になった酒壺の中を見ながら酒呑童子は言った。 酒呑童子は気まぐれな鬼だ。 柴間の呼びかけ以外にも気まぐれで来る時は多々ある。 その場合、彼の呪力ではなく酒呑童子自身の呪力を使ってこちらへ来る事になる。 柴間にとってはいい事だが、それと同時に彼が、帰れ。と命令を出しても強制的に帰還させることが出来ない。 「柴間さんがまさかあの鬼族の王、酒呑童子を使役していたなんてびっくりしました」 「言ってなかったからな。王と言っても酒飲みのただの馬鹿だ」 馬鹿と言われたのか癇に障ったのか、酒呑童子は今にも柴間に殴りかかりそうな表情で彼を睨んだ。 「柴間さん……この人は……」 「俺の式神の酒呑童子だ」 そう言いながら柴間は、新井の後ろをひょっこり着いてきた分身式神を自分の呪力に戻した。 酒呑童子はこの場にいる全員に、自分の姿を見えるように、霊力を先程よりも大きくした。 霊力を大きくしたことにより、先程まで見えていなかった櫻井が、突然目の前に現れた酒呑童子に尻もちを着きながら驚いていた。 そんな姿に酒呑童子は腹を抱え笑っていた。 「つ……角!?」 「酒呑童子って……鬼ですよね?柴間さん」 「ああ、鬼族の王、酒呑童子だ。それよりも菅谷、俺の前に来い」 菅谷に向かってこっち来いとジェスチャーを柴間はすると、胸ポケットから何も書かれていない、真新しい和紙を取り出し、祓いの呪文を書いて言う。 「僕、ちゃんと元通りになるんですか?」 「さあな。俺の実力もあるが、それ以上に取り憑かれたお前の精神力が強くなければ祓えない」 「精神力……」 「今回の場合、お前がここに居座っていた怪異を怒らせたから取り憑かれたんだ。その女の怪異に対して謝る気持ちがあるなら大丈夫だ」 柴間は書き上げた呪符を菅谷の顔の前にかざす。 すると、先程の菅谷とは別の人格が柴間に向かって暴言を叫び出した。
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