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『怪異現象』それは人が生み出し、人が成長させたものだ。
そしてそれは人を襲う。
人とはつくづくクズで馬鹿だ。
そんなことをソファーに寝そべり、顔に読みかけの本を乗せ、柴間は思っていた。
「柴間さん! ……柴間さん!!」
彼の名前が呼ばれたかと思えば、顔に乗せていた本を名前を読んだ張本人によって取られてしまった。
久々の光に柴間は目を細め、本を取った人物に目線を移した。
「せっかく学校の人が資料を持ってきてくれたのに、読まずに寝るってどういうことですか!」
ガミガミと柴間の事を注意しているのは、助手の田路一輝。
童顔で目がでかく、黒髪だからか、田路は実年齢よりも若く見えるタイプだ。
柴間は、ぼやけた視界の中で田路を眺めている。
「あのー……ところであなた達は一体、どういう人達なんでしょうか」
伸びをしながらソファーから上半身を起こすと、目の前に座っていた女性教師が柴間に問いかけてる。
「学園長から聞いてませんか?」
ガシガシと寝癖のついた頭をかきながら、彼は面倒くさそうに質問に答えていく。
「俺らは怪異探偵、怪異現象を専門とする言わば祓い屋です。俺は柴間新」
「助手の田路一輝です」
「怪異現象? ……幽霊ってことですか?」
幽霊が苦手なのだろうか、目の前の女教師は顔を青ざめ、今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。
「ええ、そして確実にいますよ学校。校門をくぐった時から酷い臭いがしてるので」
「臭い……?」
確かめるように辺りの臭いを嗅ぐ女教師。しかし、確認できなかったようで、首を傾げていた。
「一般の人には認識できないんですよ。僕達みたいな祓い屋のような、目では確認できないモノを相手にする職業か、霊感が強い人しか認識はできません」
丁寧に田路は女教師に説明をした。
「ただし例外がある。怪異が大きく強力な力を手に入れ、成長した場合、霊感など関係なしに目視、臭いを確認することができるんです」
差し出された暖かいお茶をゴクリと喉に流し込み、柴間は話を続けていく。
「怪異は死んだ人間の後悔、憎悪などの負の感情から生まれ、生きた人間の負の感情をエサに成長する。多いんですよ学校や会社からお祓いの依頼を受けるの」
「それってつまり……いじめ等の嫌がらせが原因なんですか」
柴間は大きなあくびをして、女教師の言葉に返した。
「えぇ、最近じゃ増えてますからねいじめ。それよりも自殺のあった女子トイレとはどこにありますか?」
ペラペラと資料をめくるが、柴間は、彼が求めていた怪異現象が起こると言われている場所までは載っていないと分かり、女教師に女子トイレの場所を聞いていた。
「えっと……転任してきたばかりなので……聞いてきます!」
そう言うと、女教師は一目散に部屋を飛び出し、場所を聞きに行った。
「幸い、まだそれほど強力ではないですね」
「眠りから覚めてないだけ。離れた場所でもこの臭いだ、一般人にも認識されてるだろう普通」
ゴソゴソと何かを探す田路。
ようやく見つけたのか、田路は真新しいメモ帳をバックの中から取り出した。
「眠りから覚める条件。校舎三階トイレで、扉を三回ノックして、花子さんいらっしゃいますか? と尋ねる行為までを一番手前の個室から奥まで三回ずつやる。すると、三番目の個室からかすかな声で、はいと返事が返ってくる。これが世の中に広まってる花子さんの降霊術ですよね」
田路はメモ用紙に書かれた『花子さん』というページを丁寧に読み、柴間に尋ねる。
「地方によって伝えられ方が違うが、怪異を刺激してしまえばやり方が違えど目覚める。昔遊びは言ってしまえば降霊術の一種だしな」
柴間がお茶を飲もうと手を伸ばした瞬間、地鳴りと共に臭いが強力になっていく。
その臭いに刺激され田路は一瞬、気を失いかけるが、柴間が頭を叩き気を失わずにすんだ。
「この臭い……!! どこからか分かります?」
「強烈すぎて麻痺した。鼻が利くやつは他にいる」
柴間はそう言うとコートの内ポケットから古びた手帳を取りだし、呪法の書かれた和紙を一枚引きちぎり、呼び出しの文を唱えた。
「汝よ我を守り、我を導け」
親指を噛み、和紙に親指の血を押し付け、名を叫ぶ。
「犬神、黒炎」
その名を叫ぶと俺の目の前に大きな黒い犬が現れた。首には赤の数珠をつけており、額には勾玉の片割れが書かれていた。
「今度はなんじゃ土の坊」
「今は柴間だ。気づいてるだろこの臭い。そこに連れてけ」
「対価は高いぞ」
柴間はニヤリと笑うと、田路と一緒に黒炎の背中に乗り、臭いの元へと向かう。
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