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菅谷の人格を乗っ取った女怪異は、祓いを止める為、苦しみながらも柴間の首を両手で掴みかかった。
息が詰まりそうになりながらも柴間は、表情一つ変えずに怪異に語りかけようとする。
「柴間さん!!」
柴間の事が心配になったのか、駆け寄ろうとする田路達を柴間は止めた。
息が苦しくなっていく中でも彼は騙り続ける。
「諦めて成仏してくれ」
「嫌よ……なんで私がこんな目に合わないと!! ……いけないのよ! 私は悪くないわ」
涙を流しながら怪異は陰陽師にそう訴えた。
「悪い。確かに生前のあんたは被害者だ。けど今は菅谷やその友達を苦しめてる……完全にあんたは今、加害者だ」
「違うわ!」
言うことを聞いてくれない怪異に柴間は溜息を吐く。
「人は死んだら終わりだ。それ以上もそれ以下もない。あんたは死んだんだ、もういきてる人を苦しめるのはやめろ」
その一言が怪異の憎しみに満ちた心にヒビを入れたのか、怪異は柴間の首を掴んでた両手の力を抜いた。
柴間は少し噎せながらも、九字を切った。
「青龍、白虎、朱雀、玄武、勾陳、帝台、文王、三台、玉女」
九字を切るにつれ、怪異の記憶が彼の脳に直接流れ込んでくる。
喜び、悲しみ、嘆き、そして……絶望と恐怖。全ての怪異の感情が脳内に流れ、彼の感情を刺激する。
「汝に命じる。今すぐにその者から立ち去り、汝の在るべきところに戻れ。そして、安らかに眠れ」
静かに怪異に向かってそう言うと、菅谷の体が光に包まれた。
「わ、私は……」
「辛かったのは分かる。けどそれを他人に押し付けるのは、お前を死に追いやった人達と同じだ」
「辛かった……の」
「だからこそ安らかに、次の人生へ向かう準備をしろ」
怪異は菅谷の体から離れると、その顔は初めて見た時よりも優しく、全てを出し切ったという顔をしていた。
その瞬間、柴間の脳に怪異の死ぬ瞬間、列車に引かれる瞬間が流れ込んだ。
「うっ!」
柴間は頭を抑え、その場にしゃがみこむ
「柴間さん? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ……」
彼は自殺、殺人の怪異の祓いはどの祓いの中でもトップで嫌いだった。
大抵の人は命が消えていく中で怪異が最後に思い浮かべたもの、見たものが脳内に流れ込んでいくが、柴間は違った。
彼が怪異の祓いをする時、怪異の生前の印象に残ってる記憶、そして死ぬ直後の記憶が鮮明に流れてくるのだ。
柴間は例外だとしも、なぜ彼ら陰陽師がそんな悲しい事が脳に流れ込んでいくのかには一つだけ理由があった。
それは、陰陽師の生みの親、恐陰神が陰陽師が相手にしているのが元は人間というのを忘れない為、そんな残酷なことを直接脳内に流れ込むようにしたと言われている。
「私は…………次は、幸せになり、たい……」
悲しげに怪異の言葉が神社内に響き渡った。
「ハァ……菅谷、大丈夫か?」
「…………え、あ……肩が軽くなったような」
「お前に取り憑いてた怪異は祓った。もう大丈夫だ」
腹の傷口と頭を抑えながら柴間は菅谷にそう言う。
次は、と思いながら、柴間は田路の背中で今目を覚ました飯沼の元へ向かった。
「飯沼と言ったな……ハァ……怪異から貰ったものを口にはしてないな」
少し戸惑いながらも飯沼はゆっくりと首を横に振った。
「そうか。ならこれを食べとけ」
柴間は桜の葉に包まれた団子をげっそりした飯沼に渡した。
これは? と言いたげに柴間の顔を見る飯沼に彼は優しく手短に説明をした。
「神隠しっていうのは、連れ去った人間の霊力を吸い込み、強くなる為の事だ。たまに友達欲しさなんかに連れ去るやつもいるけどな」
「連れ去られたから、これを?」
桜の葉を捲りながら飯沼は訪ねてくる。
「ああ、お前は以前の霊力が無い分、俺らみたいに霊力が強い人じゃないと見えないんだ。それは吸収された分の霊力を補充するものだ」
「じゃあ今は……健二達に見えてないんですか?」
「いや、新井は見えてるだろうな」
新井の方を見れば飯沼が見えてるのか、今にもこちらに来そうにしていた。
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