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傷口の痛みで柴間は目を覚ました。
ベッドの上で痛みを我慢しながら伸びをする柴間は、壁に掛けられた時計を視界に入れる。
時計の針は午前八時を指していた。
「お早い目覚めだな新」
朝から酒を飲む鬼の王、酒呑童子が俺のソファーに座っていた。
昨日のあの後から事務所に帰ってきても酒呑童子は式神の次元に戻ろうとはしなかった。
柴間が戻ってくれ。と、お願いしても酒呑童子は言うことを聞いてはくれなかった。
「一体いつになったら帰ってくれるんだお前は」
「美味い高級な酒をくれたら帰ってやる」
「はぁ……それよりも、田路は?」
この事務所には田路と柴間が住み込みでいる。
二階は事務所、三階が柴間の部屋と田路の部屋。あと四階に物置の一つの小さなビルを買取って、怪異探偵事務所を作ったのだ。
「田路……ああ、あのヒョロい弟子か。優雅に朝ごはんを作ってたぞ」
「ヒョロい…………朝ごはんか。お前はいるのか?」
「酒だけで十分だ。どうも人間のご飯は好かん」
「つまみは好物なくせに」
「酒のお供はつまみと決まっているだろ」
その言葉が部屋に響き渡った直後、部屋のドアがゆっくりと開いた。
ドアを開けたのは助手兼弟子の田路だった。
田路は出来たてのホットサンドとコーヒーをお盆の上に乗せ、部屋に入ってきた。
「ちょうど起きたんですね。ホットサンドとコーヒー、冷めないうちに食べてくださいね」
「ホットサンド……本当に文明というものは進化するばかりだな」
初めて見るホットサンドに興味津々の酒呑童子は何故か俺のホットサンドをパクリと一口かじったのだ。
それを見て田路は口を開きながら驚いた。
終いには酒呑童子を指さし、怪異って人間の食べ物食べるんですか!? と発言をした。
「怪異の中には人間の食べ物も食べる奴はいる。犬神の二匹もジャーキー食べるだろ」
「あ、確かに」
それよりも。と何かを思い出したように田路は、ドアの影に隠れていた青年を部屋に招き入れた。
その青年は、他でもない柴間の腹に傷を負わせた怪異を怒らせた原因の一人、新井健二だった。
忘れられていた新井を可哀想に思いながらも柴間は、なぜここに来たんだ? と問いかける。
「その、昨日のお礼と……もう一つ依頼なんですけど……」
オドオドしながら新井は柴間に追加の依頼を話し始める。
「その代わり、依頼料は倍だからな。それでいいなら言ってみろ」
「倍……バイトそんなに入れられないんで一万円ぐらいなら……」
「わかったわかった。さっさと言え」
ゴソゴソとリュックの中からスマホを取りだし、新井は可愛らしい白と黒の子猫の写真を彼らに見せる。
写真を手に取り柴間は、これが一体どんな依頼に繋がるんだ? と思っていると新井は依頼の内容を話し始めた。
「俺の実家で飼ってる猫の助六なんですけど、じいちゃんから電話があって、一昨日の朝に急に姿消しちゃったらしいんですよ」
「ああ……で?」
「いや、少し探して欲しいなって」
柴間はコーヒーで満たされたカップを持ち上げ言った。
嫌だと。
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