參の書

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あれから新井と合流し、猫の私物を貰うと柴間は黒炎と白澪にその匂いを嗅がせ、捜索に行かせ、彼らは警察署に向かった。 警察署に着くと柴間は田路と新井を車に残し、怪異事件課へと足早に向かった。 「こんな休みの期間に仕事なんてな。人間とはつくづく愚かで面倒なものだな」 「今は俺も仕事中だ。二日連続のな」 「お前の場合はこいつらとは違うだろ、自由に休んで自由に行動が出来る上に、規則の上で調査をしなくて済むからな」 警察という職業がどういうものなのかを酒呑童子は知っているような口調で、柴間に言った。 確かに酒呑童子の言う通り警察署にある怪異事件課と俺には明らかに違うものがある。 それは自由さだ。 警察は国民を危険な事から守るのが使命。だが、彼は違う。国民をから守るのが怪異探偵である柴間の仕事だ。 「久々にあんたの顔をみたよ。柴間」 休憩スペースから出てきた柴間の目線の高さぐらいの女性が、疲れたような顔で彼の名を呼ぶ。 きっちりと黒いスーツに身を包んだショートの女性。この人こそ警察署怪異事件課の刑事、源雪子(みなもとゆきこ)だ。 「で、今度は何? また壊した物の請求書送り付けてきたんじゃないでしょうね」 「あのな、俺=請求書って認識やめろ。それよりこの猫を探して欲しい」 猫の絵が書かれた紙を渡すと、源は持っていた缶コーヒーを一口、口に含むとじっくりと猫の絵を見ていた。 「いつからあんたの探偵事務所は、迷い猫の依頼も引き受けるようになったの?」 「いや、もしかしたら……」 「聞いて驚くなよ源。この事件の報酬はあの新井酒屋の豪鬼という酒だ」 柴間の言葉に被せながら酒呑童子は、源に今回の報酬の事を得意げに話していた。 話の話題を猫に変えようとするが、彼女は『酒』という単語に食いつき、柴間の話などもう、彼女の耳には届いていなかった。 源は酒呑童子同様、酒に強く、どんなものよりも酒が好きだ。 酒の事になってしまえば今やっている仕事を放り投げるぐらい。 だから酒呑童子とは昔から気が合うらしい。 「今すぐにでも探しに行きたいところだけど、今立て込んでてね」 「酒好きのお前が珍しいな。そんなに難事件なのか?」 源は周りをチラチラと確認して、柴間に事件の内容を話した。 「昨日、あんた達が解決した怪異事件の神社付近で今日、男性の変死体が見つかったのよ」 「変死体? 年齢は」 「解剖した結果、その遺体が神社周辺に住む、小川浩司(おがわこうじ)さん五十六歳だってわかったの」 スマホを取りだし、源は送られてきたメッセージを読みながら言った。 柴間は彼女の隣に立ち、スマホを覗き込むような姿勢でその話を聞く。 「上は通常事件と怪異事件で調査中。けど完璧怪異事件なのよこれ」 彼女がそう言い終わると同時にスマホが何者かに奪われてしまった。 彼らはスマホを奪った人物を見て、少し驚く。
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