參の書

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柴間達を乗せた車は、この街の名物の桜の木がある公園へと向かっていた。 さっき黒炎達から連絡があり、猫を目撃したという野良猫を桜の木下で発見したらしい。 「到着しましたよ柴間さん…………柴間さん? 大丈夫ですか? そんな浮かない顔をして」 目的の場所についても降りない柴間を心配したのか、田路は振り向きながら彼の名前を呼んだ。 「大丈夫だ」 さっきの事を頭の片隅に置きながら柴間は目的の桜の木へと向かう。 「人には散々切り替えろと言っておきながら、自分は切り替えができないなんてな。だからクソジジイ達に怒られるんだろ」 「それとこれは別の話だろ」 柴間の隣を歩く酒呑童子は嫌味たらしい言葉を投げかける。 内心、デリカシーの欠片もない鬼だ。と思いながら柴間はその言葉を適当に受け流す。 「遅いじゃないか土の坊、待ちくたびれぞ」 「お腹すいたわ」 「後でちゃんとジャーキーやるから。目の前にいる猫がそうか?」 二匹の前には貫禄のある茶トラの猫が座っていた。 「そうよ。どうやらこの子、この街の野良猫のボスだったらしくてね」 「へーこの猫ちゃんがですか? いやーやっぱり茶トラ猫って可愛いですね」 近くに生えていた、ねこじゃらしを取ると新井は茶トラの目の前で小刻みに左右に振った。 習性上動くものに夢中になる猫は、先程の大きな態度とは打って変わって、全力で猫じゃらしと戯れていた。 「可愛い……」 「ほんとに野良猫のボスなのか? この猫」 戯れる猫を指さし、酒呑童子にガミガミと何かを言っていた白澪に問いかける。 「猫さん、さっき言った事をもう一度教えてくださる?」 「ふんっ……しょうがないの。六助をわしは三日前に見たんじゃ」 新井のねこじゃらしを無視し、座り直すとそう話し始めた。 「助六は元々は野良猫じゃったんじゃ。わしの縄張りによく遊びに来ておったよ子猫の頃は」 「なんで猫の声が聞こえるんですか!?」 両耳を抑えながら新井は柴間にそう問いかけた。 「残念ながらこいつが死んでるからだ。死んでれば怪異となり、俺らと同じ言語を喋ることができるんだ」 「どういう原理なんですか?」 「知らない。とにかく話を聞こう」 猫は後ろ足で頭をかきながら話を続ける。 どうやら自分が死んでしまったことはもう自覚済みらしい。 「野良猫の名残なのか、あいつは暇があれば野良猫のたまり場に遊びに来ていたんじゃよ。けれどな、一昨日の昼を最後に見てないんじゃよ」 「昼……今の情報だと昼までは生存確認ができていたわけか」 「生存確認って……助六死んでませんよきっと」 生存確認。という単語を聞くなり新井は少し青ざめた顔で無理やり笑っていた。 さらに猫の話によれば、最後に見たのは野良猫のたまり場のこの公園らしく、その後の行方は分からないとの事だった。 また情報が途切れ、途方に暮れていると酒呑童子が呼び出した眷属の炎鬼達がひょっこりと柴間の視界に入ってきた。 「酒呑童子様」 「猫、猫」 「連れてきましたー」 うざい喋り方に少しイラつきながらも柴間は、炎鬼の足元にいる猫を見た。 その猫をマジマジと見ると柴間と酒呑童子は、だはー。と大きく溜息をついた。
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