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電話で言っていた鉄塔に着くと柴間は辺りを見渡し、源達の姿を探した。
「土の坊、あそこだ」
「確かに足元に猫がいるな」
源の元へと近寄ると、確かに彼女の目の前には怪異となった助六が立っていた。
助六は呑気に毛ずくろいをし、愛くるしい表情をこちらへ向けていた。
「案外早かったのね。死因は病死かも、遺体に外傷は見当たらなかったから」
「猫の習性かってやつか?」
怪異となった助六をジロジロと見る剣丞がそう言った。
助六は見られるのが嫌だったのか、それとも剣丞が気に入らなかったのか分からからないが、シャーと威嚇をしながら剣丞の頬を引っ掻く。
「いっ……何すんだよ!!」
「あんたの目付きが悪いからよ」
「はぁ!?」
剣丞は少量の血が出てる頬を押さえながら、源のを見る。
「君が助六か?」
「にゃ? なんで僕の名前知ってるの?」
「君の飼い主から探すように言われたから、凄く心配してたぞ」
そう話をすると助六は顔を俯き、悲しい表情をした。
目の前から消えたとしても大切な家族だ。それは助六もわかっているようだった。
「でも、僕はもう死んじゃったし……家族の皆、おじいちゃん、健二には見えなし」
今更行っても仕方がない。そう言いたげな顔をして助六は柴間は見ていた。
柴間はそんなマイナスな事を言う目の前の猫に対して、軽く溜息を吐き、頭をかいた。
そんな感情があるなら何故目の前から逃げた? と問いただしたくなるのを抑え、柴間は助六の傍らに置かれたダンボールに目線を移した。
ダンボールからは、か細い猫の鳴き声が微かに聞こえてきた。
「確かにいんなぁ。あの箱の中に猫が一匹」
柴間目線に気がついたのか、酒呑童子は彼の言いたかったことを代弁し、ダンボールに近寄った。
酒呑童子を敵とみなしたのか、助六は剣丞の時よりもさらに力強く、その箱の前に立ち、威嚇をした。
けれど相手は鬼の王。そんな威嚇など通用する訳もなく、酒呑童子はただの睨みだけで助六を黙らせてしまう。
「酒呑童子様」
「この猫が」
「探していた猫ですか?」
タイミングが良いのか悪いのか、炎鬼が突然酒呑童子の目の前に現れた。
「それよりも」
「酒呑童子様に牙を向けるなんて」
「死に値するぞ!」
今にも攻撃を仕掛けそうな炎鬼に対して、面倒くさそうな顔をしながら酒呑童子は、炎鬼を帰した。
「これだから弱い生き物は嫌いだ」
嫌味のように、けれどどこか悲しく酒呑童子は助六に向かってそう呟いた。
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