參の書

12/13
前へ
/107ページ
次へ
柴間は助六を(なだ)めながら六助の後ろにあるダンボールの蓋を開けた。 ダンボールの中にはボロボロの毛布が敷かれ、その上には助六と同じ模様、色の子猫が小さな鳴き声を上げていた。 「捨て猫か?」 「いや、お前の弟だろ助六」 柴間はその子猫を抱き上げ、未だ酒呑童子を威嚇し続ける助六に問いかけた。 子猫はジタバタと手足を振り回して抵抗をする。 「でも助六って拾ってきたんでしょ? 一緒にいれば弟の猫も拾われるはずよね?」 「きっと弟の分の餌を取りに行ってる時に新井の爺さんに拾われたんだろうな」 「…………ならなんでその子猫がここにいんだよ」 剣丞と源は、柴間の手の中にいる子猫をジロジロと見ながら疑問をぶつけてきた。 柴間は少し笑いながら助六の思っている事を口に出す。 「申し訳なかったんだろ。拾われたと言っても自分は後から来た身、それを図々しく弟も! なんて言えるわけないだろ」 子猫の顎下を撫でながら彼は話を続ける。 「それに人間と猫では言語の壁があるしな。どんなに伝えたところで新井達には伝わらなかったんだろ」 「だから弟の為に毎日ここに来て餌を与えてたのか……お前、偉いんだな」 怪異となってしまった助六をわしゃわしゃと撫でる酒呑童子。 柴間の目には助六と自分を重ねてみているように見えた。 「じゃあ成仏できない理由は弟を置いて死ねないからってことか…………ところで田路さん達はどうしたんだ?」 「置いてきた」 「はぁ!? 肝心な新井って野郎がいなくちゃ解決出来ないのにか?」 急に声を荒らげる剣丞に驚いたのか子猫は、飛び起きるように身体をびくつかせ、尻尾を立てていた。 柴間は声を荒らげた剣丞を睨む。 「あいつの精神状態は今不安定だ。変に刺激をかければ眠っている霊力が暴走する」 「あの子、田路君と同じ類なの? 写真を見るからにそうは見えなかったけど」 「いや、田路とは別だ。田路は元から見えていた、けどあいつの場合はあの事件がきっかけで覚醒したんだ」 酒呑童子は持っていた酒をがぶ飲みし、柴間の隣に立っている黒炎達を見ていた。 「この猫……俺らに似てるな」 「はっ……お前がそのような事を言うとはな。槍でも降るんじゃないか?」 「まあ、似てるわね。私達も新に拾われた身……どれだけ時が経とうがそれだけは忘れないわ」 直接脳内に聞こえる式神達の会話。 柴間は表情を緩ませまいと必死になりながら、無表情で黒炎達の元に歩み寄った。 「暴走したら俺が止めればいい。黒炎、白澪、田路達を迎えに言ってくれるか」 二匹は微笑むと刹那の如く、彼の前から消えた。 「お前もそんな顔をするなよ。兄弟は離れていても兄弟、きっといつかお互いに支え合う時が来る」 「ふっ。兄弟ねぇ……あいつらはそう思ってねぇかもよ」 「その時は分からせればいい。同じ血が通っているって」 鉄塔の下、怪異となった兄に寄り添う弟を見ながら柴間はそう酒呑童子に言葉を投げかけた。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加