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旧校舎に着けば、校舎は怪異のせいなのか不気味な雰囲気を醸し出していた。
「時間が無い。黒炎、三階まで飛べるか?」
「おやすい御用だ」
「田路、結界を張れ。旧校舎全体を囲むように」
「わかりました」
田路をその場に下ろし、柴間は黒炎に再度跨った。
「汝よ我を守り、何人たりとも此処を通さん。黒式結界!」
田路がそう唱えると旧校舎の全体を黒い幕が覆った。
それを確認し、旧校舎三階へと向かう。
──バリンッ。
窓を割り、旧校舎内へと入るとそこは先程とは打って変わって、強烈な異臭が漂っていた。
その悪臭は柴間と黒炎の嗅覚を刺激する。
「くそっ……やっぱり出やがったか。黒炎、大丈夫か?」
「鼻がひん曲がりそうだ。土の坊、一人では祓えんだろ」
「だから柴間だって」
そう言いながら柴間は黒炎の背中から降りると、怪異が出たであろうトイレへと向かう。
女子トイレに着くと、そこには四人の女子生徒が床に横たわっていた。
怪異はただ、三番目のトイレの前でブツブツと何かを呟いていた。
「生きてはいる。けど、このままここにいると死ぬな。黒炎、時間を稼げ白澪を呼ぶ」
「彼奴を呼ぶのか! ……まあよい、状況が状況じゃからな」
嫌々そうに黒炎は彼の目の前に立ち、怪異である花子さんと呼ばれるモノに威嚇をしていた。
柴間はコートの内ポケットに入れていた手帳を取りだし、黒炎と同じ呪法の書かれた和紙に血を付け、召喚の呪法を唱えた。
「汝よ我を守り、我を導け。犬神白澪」
そう名を呼ぶと目の前に黒炎とは真逆の真っ白な狼のような犬が現れた。額には黒い勾玉の片割れが書かれ、首には青の数珠をつけていた。
「久しぶりね新。今日はどんな御用?」
倒れている女子生徒四人を指さして言う。
「そこに横たわってる女子生徒四人を外にいる田路の所に連れて行って欲しい。終わったらあの怪異を祓う手伝いだ」
「結構多いわね。まあ、それなりのご褒美があるなら、いいわよ」
「ちゃんと用意する」
「わかったわ」
白澪はそう言うと女子生徒四人を背中に乗せ、田路の場所へと向かった。
黒炎に目を向ければ、怪異にまだ威嚇をしていた。きっとこちらから攻撃を仕掛けない限り、向こうから仕掛けることは無いだろと彼は思い、祓う為の呪法を唱え始めた。
「青龍、白虎、朱雀」
柴間は陰陽道の九字を唱えながら印を結んでいた。額に汗をかき、怪異を祓う事に意識を集中させ。
「玄武、勾陳、帝台、文王、三台、玉女」
唱え終えると共に怪異が叫び、噛んでいた黒炎の顔を弱く殴っていた。
「私はただ…悲しかった……」
苦しんでる。そう思い、柴間が緊張を少し弛めた瞬間、怪異は隙をつき、窓を蹴破り、逃げようとした。
「白澪、戻れ!!」
その声に反応するように一瞬にして白澪が俺の隣に現れた。
式神とは契約している主の命令一つで、場所があまり離れていなければ、その場に呼び出すことが可能だ。
「逃げられたの?」
「ああ。黒炎、白澪! 強制祓いだ!」
「最初からしとけばよかったじゃろ! 白澪、氷冷結界じゃ」
その名の通り黒炎は炎を使った呪術、結界を得意とする。白澪は基本水を使うがその応用呪術の氷も扱える。
どちらも犬神で嗅覚はどの式神よりも優れ、探索などによく呼び出している。
「俺の性格わかってるだろ。いいから強制祓いだ」
渋々なのか黒炎と白澪は外に出て、花子さんを追った。
「冷ややかに主に仇なすものを我は許さん、氷冷結界!」
そう白澪が唱えると同時に花子さんの足は凍り、身動きが取れ無くなっていた。そこに黒炎は炎を吐き、花子さんを強制祓いしていた。
「いやぁぁ!! 私は……私は楽しい学校生活を、送りたかった……だけなのに……」
焼かれて灰になり、消えていく花子さんは涙を浮かべ消えていった。
ポロリと地面に落ちた名札には、『影山花子』と書かれていた。
柴間は落ちた名札を拾い上げると、灰となり消えた花子さんに手を合わせ、目を閉じて彼は花子さんの成仏を願っていた。
「だから人は愚かで、くだらない生き物だ」
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