壹ノ書

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柴間は田路の運転する車で優雅に音楽を聴きながら事務所へと戻る最中、田路が彼に質問をなげかけた。 「女子生徒の人に聞いたんですけど、って降霊術になるんですか?」 田路は柴間の弟子。 まだ半人前の田路にとってこちら側の知識は無いにも等しかった。 柴間は眉間に皺を寄せながら、説明を始める。 「地方では呪いの歌とも言われてる」 「呪い!?」 運転中ということもあってか、田路は正面を見ながら驚いていた。 「意味も色々あるしな。江戸時代の罪人を捉える時の事を歌ってるだの、いじめの歌だの、1番多いのは流産だな」 って共通しなくないですか? 鶴と亀が滑ったって縁起のいい動物だし」 確かに動物的に見れば鶴と亀。昔からの言葉でも鶴は千年、亀は万年とも言われる長寿動物としても有名だ。 だが、そんな意味などにはない。本当の意味は残酷で悲しいものだから。 柴間は一人そんな事を思いながら、驚いている田路に説明を続けた。 「お腹にいる子供はいつ産まれるのでしょう。夜明け近くに母親とお腹の赤ちゃんは階段からすべった、後ろにいたのは姑──っていうのが意味だ」 それを説明し終わると田路は無表情でハンドルを握っていた。 「怖いですね」 「安全運転な田路」 「はい」 は降霊術だ。けれどそれはあまり世間には知られていない情報。 怪異事件の元になるものは全て警察や柴間達が消している。 それでも情報は拡散されている。 善人がいれば悪人がいるように、彼らの世界にも一般人を助ける人がいれば、その逆もいる。 怪異を使って人を殺す人達が。 「でも、ってよく遊びますよね。子供達」 「やる場所に怪異の元がなければそれを目覚めさせないし、今回の場合は円の中に人を入れない本格的な降霊術だったからだ」 そう言い終わるとタイミング良く、柴間のスマートフォンの着信音が車内に鳴り響いた。 柴間は着信元の名前を見ずに電話に出る。するとスピーカーから男の怒鳴り声が聞こえてきた。 「毎回毎回お前は! 請求を怪異課に送るなって何度言ったらわかるんだよ」 「…………運転中だからきるぞ」 「お前は運転しないだろ」 「で? 何の用だ」 電話の主は、怪異課の助っ人として祓いを行っている犬塚剣丞(いぬずかけんすけ)だった。 柴間は田路にも聞こえるようにスピーカーにし、スマートフォンを台の上に置いて会話を進める。 「降霊術の事だ。昨日、不審な心霊サイトがあったんだ。直ぐに対処をし、消したが何人かに閲覧されていたようでな、もしかしたらそれが原因で起きたのかもしれない今回は」 その話は、柴間の考えた通りだった。 「あ、一人の女子生徒も心霊サイトでが降霊術だと知ったって言ってました」 「田路さんか。やっぱりまだいるんだな怪異を駒に犯罪をする奴らは」 「足もつかないし、平気で何十人も殺せるからな」 柴間は小さくため息を吐くと、窓を開け外の空気を肺に放り込んだ。 「とにかく、次やったらお前の依頼料貰うからな」 「警察関係者であろうお方が泥棒なんて、子供が聞いたら泣くぞ」 「元はと言えば、お前の壊したものだろ。俺らに払わすな」 これ以上続けていても面倒くさいと思い俺は電話をきった。 空を見ればもう日は沈みかけ、空はオレンジ色に染っていた。
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