貮ノ書

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新井の住む地元には、少し変わった神社があった。 神社のすぐ目の前が踏切になっている神社だ。 昔は踏切が無く、人身事故が多かったと地元の大人達は話していた。 不自然な事はそれだけじゃなかった。 線路に誰もいないにもかかわらず、その踏切を通る電車は安全確認で止まることが多々あった。 そんなくだらない噂話は地元に住んでいれば一度は聞いたことのある、有名な心霊話になっていた。 新井はその心霊現象が本当なのか確かめるため、仲の良い男子三人と肝試しをする事にした。 「ほんとに出るんだろうな」 「そんなの知らねぇよ。けど、確かに電車がこの踏切で止まることあるし」 時刻は夜の七時。 踏切にはポツンと街灯が一つしかなく、薄暗い。その薄暗さがさらに新井達の恐怖心を倍増させていた。 「気味悪いな……」 ──カンカンカンカン。 タイミング良く電車が来たようで、遮断機が下り始める。 遮断機が降りるとまるであの世とこの世を区切っているような感覚に新井は襲われた気がした。 ここはやばい。そう直感が叫ぶが、新井は遮断機が上がると同時に神社の中へと吸い込まれるように入って行く。 「おい、健二(けんじ)待てよ」 彼の名前を叫び、追いかけるように友達三人も神社へ向かって行く。 神社の敷地へ入ると、まるでエアコンの効いている部屋みたく冷たい空気に包まれた。 敷地は狭く、すぐ目の前にお賽銭箱などが置かれた小さい神社。 「ちっちゃい神社だなぁ」 「写真撮って、お賽銭して帰ろうぜ」 外から見た時よりは恐怖心は薄れており、拍子抜けされた気分だった。 パシャリと写真のフラッシュで辺りが少し照らされる。その時に新井は気がついた。神社の後ろに大きな竹藪が広がっていることに。 「神社より竹藪の方がでけぇじゃん」 「なんて願いする?」 「次の期末赤点ありませんよーに。でいいだろ」 肝試し気分も途切れ、新井達はふざけ始める。 ──カンカンカンカン。 また遮断機が下がり始める。 何故か新井はその光景から目が離せなかった。別に変わったところもない踏切をただじっと、彼は見ていた。 あと少しで電車が踏切に差かかる時、真っ赤なワンピースを着た女性が踏切の中に入ってきた。 声をかけようにも新井は声を出せずに、ただ轢かれるのを見ていた。 電車の大きな警報音が辺りに響く。 その途端、ハッとしたように新井は今見た光景を隣に立つ友達へと伝える。 「今! 女の人が引かれた!!」 「は?」 「引いたなら止まるだろ。見間違いだよ健二の」 しかし、彼らは電車が女性を轢いたという話を信じようとはしなかった。 いや、確かに電車が通る前に赤色のワンピースの女性はいた。見間違えなわけないと思いながら新井は賽銭箱にお金を放り込んだ。 「助け…………てくれないの?」 手を合わせると同時に新井の右の耳元で女性の掠れた声が聞こえた。 ゾクリと背筋が凍るような感覚になる。 振り返っちゃいけない。と思いながらも新井はゆっくりと後ろを振り向く。 だがそこには誰もいなかった。
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