貮ノ書

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ホッと胸を撫で下ろすと、今度は目の前から、ガッシャン! という大きな音が聞こえてきた。 目を向ければ、新井の友達の一人、櫻井航大(さくらいこうだい)が参拝の時に鳴らす鈴を落っことしたのだ。 「それはやばって航大」 「こういうのって大きな音立てた方が、願いが叶いやすいって婆ちゃんから聞いたから」 「馬鹿力すぎんだろ!」 その出来事に彼らは笑っていたが、菅谷正和(すがやまさかず)だけは青ざめた顔で鈴を見ていた。 「正和、どうした?」 新井はそんな菅谷の事が心配になり声をかけるが、彼の声に怯えたのか菅谷は何も言わずに踏切へ走って行ってしまった。 「おい、正和!」 新井も菅谷を追うため、踏切に向かって走る。 ──カンカンカンカン。 また電車だ。遮断機が下がる。 「え? 健二帰んのかよ!」 櫻井も気がついたようで、遮断機が完全に下りる前に新井達のいる踏切前の道路に来ることが出来た。 「お前、孝介(こうすけ)置いてきたのか?」 怯える菅谷をなだめながら新井は、櫻井にそう聞いた。 「あ、でも大丈夫だろ。てか正和どうしたんだ?」 「わからねぇよ。ずっと怯えてるんだ、お前が鈴落とした時から」 菅谷は蹲り、何かに怯えるようにブツブツと何かを呟いていた。 何を言っているのか気になった新井達は、耳を菅谷の口元ら辺へ近づけた。 「僕は……見殺しにしてない……僕は…………見殺……にしてない」 壊れたように菅谷はその言葉をずっと繰り返す。 「正和が……俺のせいだ」 「何があったんだ?」 ──カンカンカンカン。 また踏切の警報機の音が不気味に鳴り響いた。踏切を見ると向こう側に孝介が佇んでいた。 「孝介! 電車が来る前にこっちに来い!ここやっぱやばいよ」 その声は届いていないようで、孝介はただじっと踏切を見つめていた。 「健二、孝介なんか変じゃね」 「孝介だけじゃない。正和もだ」 焦りと恐怖でいっぱいの新井はただ貨物列車が通り過ぎるのをじっと待っていることしか出来なかった。 長い貨物列車が通り過ぎ、神社へ目を向けるとそこには誰もいなかった。 さっきまでそこにいた孝介は忽然と消えていた。 「は?! 何ふざけてんだよ孝介!」 「そんなに置いてかれたのに怒ってんのかよ!探しに行くぞ航大」 菅谷の隣から立とうとした時、新井の腕が引っ張られた。 やけに冷たい手に。 「い、行けば帰れなくなる……僕らも」 冷めきった手は菅谷のものだった。まるで氷のような冷たさだった。 「でも孝介がいないし、帰れねぇよ」 「ひとまず警察!」 その後、警察や親、友達に連絡し、夜が開けるまで飯沼孝介(いいぬまこうすけ)の捜索をした。 けれどどこを探しても彼は姿を現さなかった。 あの神社の周りは田んぼだ。隠れるとしても神社か後ろにあった広い竹藪だけなのに彼はいなかった。 孝介はどこへ行ってしまったのだろうか。
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