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佐希子4
許さない。許さない。許さない。許さない。
数日前。彼が仕事の前後によく立ち寄るコンビニで、佐希子は彼との再会を果たした。そこで黒い革の財布を彼に差し出した。
しかし彼の反応は、彼女が予想していたものと大きく異なり……
「も、もう関わらないでくれって言っただろう!」
「私は偶然財布を拾っただけで……」
「よしてくれ! 白々しい!」
自分の手から財布を引ったくり、彼は逃げるように去っていった。
そうして魂が繋がる程に愛し合った彼からの二度目の拒絶を味わった佐希子であるが、前回と大きく異なっていたのは、まだ彼が手の届くところにいる事。そして彼が自分を拒絶する理由となるものが、存在している事だった。
あの女のせいだ。あの女が、彼の自由を奪っているのだ。
佐希子は、自分の不都合の原因を、全て彼の妻に押し付けた。
というのも、佐希子が知る彼はもっと華やかな生活を好む人物であり、現在はそれが妻により抑圧されている事が、以降の調査により明白となったのだ。
また、その調べの中で、彼がこそこそと会社の人間と浮気をしている事も判明していており、それが彼の妻への愛情の希薄の何よりもの証拠であり、彼をその行為に駆り立てているのも、妻に抑えつけられている事への反動によるものと佐希子は考えている。
近頃彼の帰宅が早くなったのも、あの女が自分と出会った事での彼の変化に気がつき、より束縛を強めたせいに違いない。
このまま放っておけば、ますます彼の行動が制限され、自分と会う機会が奪われてしまう。
そんな事はさせるものかと、佐希子は窓の向こうで食事を続ける仇敵を見つめ、右手の包丁を握り直す。
その時、女と視線がぶつかる。その口元に僅かな笑みが浮かんだ気がして、佐希子の怒りは頂点に達した。
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