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中にはやはり大量のレシートの束が挟まっていた。長い期間入れたままにされているものが多いようで、文字が消え、殆んど白紙と変わらない状態のものも多くある。
レシートの量に反して、入っている札は千円札一枚きりで、その代わりという訳ではないだろうが、小銭入れは硬貨でパンパンに膨らんでいる。
カード類は会員証、ポイントカードばかりでクレジットカード、キャッシュカードすらも入っておらず、そうなると現金の少なさが気になり、もしかしたらそうしたカードだけ既に抜き取られている可能性も考えられた。
免許証を最後まで見なかったのは、彼女のちょっとした遊び心で、というのも彼女は財布の中身を見る事で、何となくその持ち主の容貌や人柄を勝手気ままに想像していたものだから、最後にその答え合わせをするような気持ちでいたのだった。
しかし免許証を見た途端、佐希子は衝撃に打たれる。四年前の恋人。彼女が生涯で最も愛した男の名と顔が、そこにあったのだ。
更新をしたのだろう。写真の顔は、自分が知っているより少し老けたように思える。
閉じ込めていた熱が、体の内から沸き上がってくるのを佐希子は感じた。
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