美紀2

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美紀2

 行きつけのカフェのテラス席に座り、美紀は親友の恵衣(めい)とランチを囲んでいた。  部署は異なるが、恵衣と夫は同じ会社に務めている。というのも美紀は以前、恵衣と同じ職場で働いおり、そこへ中途入社してきた夫と知り合い結婚に至ったのだった。  夫も今日は休日であったが、ソファーの上でゴロゴロとしている彼を一人残し、美紀はこの場所までやって来ていた。 「家にいたって何もしないんだから、見ててイライラするだけだしね。かといって今更一緒に出掛けたいなんて気持ちは湧かないし」 「アンタそれ、ウチの会社の子達に聞かれたら刺されちゃうわよ。彼、結婚した今だって人気すごいんだから」 「よく言うじゃない。結婚相手と恋人は違うって。あれは大当たりだったって事よ」  顔もよくスキルもある夫はよくモテ、本人の性格も助力して数々の女子社員と浮き名を流していたが、美紀と結婚して以降は仕事一辺倒(勿論そこには、美紀の並々ならぬ努力があったのだが)の人間に変わった。  その様子は恵衣の口からも聞かされており、美紀自身その変化を喜んでいたが、一年程立つと、魅力的だったはずの彼が、退屈な日常の景色の一部と化してしまった。  彼は遊びと仕事が得意な人間であったが、夫や家族としての才能を、持ち合わせていなかったのかもしれない。 「あの人は家を疲れを癒す場所としか思っていないのよ、きっと。それはそういう部分がある事には違いないんだろうけどさ、会話は必要な事だけ、家事と仕事を分担し合うだけの関係だっていうなら、家政婦と変わらないじゃない」 「まぁねぇ」  社内結婚の気まずさもあったが、美紀が仕事も自由も捨て主婦になる事を選んだのは、何より子供を産み、育てるという大きな希望があったためであった。  それを叶えられなかった美紀には、仕事も遊びも充実している目の前にいる恵衣が、自分が目指していたもう一つの理想の姿のように見えていた。
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