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美紀3
「今日は随分と手が込んでいるんだな」
スープを啜りながら、夫は言った。
食卓にはサラダにスープ、ご飯にハンバーグ。スープもハンバーグのデミグラスも手製のものだった。
「一緒に食べられるなら頑張り甲斐もあるからね。ほら最近、あなた帰りも早いし」
「……少しは、仕事も落ち着いてきたからな」
罰が悪そうな夫の顔を見て、美紀は胸の内でほくそ笑む。
結婚相手が何かを隠すために突然良夫を演じ始めるというのはよく聞く話だ。帰宅が早くなり、外食も減った近頃の夫の変化から、彼女は計画の成功を予感していたのだった。
美紀が夫との離婚を考え始めて一年以上になる。
既に気持ちは切れているといえど、キャリアを捨ててまで選んだ結婚を、何も得られず、時間を浪費させただけで終わらせるのは、美紀の性格上許せる事ではなかった。また、それだけプライドの高い彼女である。周囲や親類への体裁も、強く気にしていた。
そんな折、夫の元交際相手が、近くのデパートで働いていると友人の恵衣から聞いた。
どうして恵衣がそんな事を知っているのかと疑問には思ったが、よくよく考えれば、自分との交際以前は恵衣は自分以上に夫と仲が良く、自分が知り得ない事を彼女が知っていてもおかしくはない。
それよりも美紀の興味を強く惹いたのは、元交際相手が未だに夫への未練を断ち切れていないらしい、という事だ。
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