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「この前、先輩から聞いた話なんだけどよ。朝宮さんに告白した奴が惨敗して泣き叫んでいたらしい。「好きな人がいるって言われた。」って。」
「お…おう。」
池垣が言ったことは、きっと他の男性社員だったら大騒ぎをするだろう。
しかし、愁次はそこまで驚きはしなかった。
先程、愁次は朝宮のことが気になると話していたが、それは恋愛側の気持ちではない。
同期として、仲間として心配しているという気持ちに近い感情を抱いていた。
「これ、他の奴らに言ったら絶対騒いで大捜索隊でも作りそうだよな?」
「ああ、間違いなく。その捜索隊の餌食に、俺らも候補として上がる確率は高いぞ。」
「うっわ…それはマジで御免だわ。」
池垣は、真っ青な顔を引きつらせる。
想像しただけでも恐ろしいことだ。
この部署の中だけでも、朝宮に好意を寄せる者は少なくはない。
もし、彼らのターゲットになったら蛇のようにしつこく付き纏れ、吐くまで縛られるだろう。
だが、愁次にとっての朝宮は高嶺の花のような存在。
あまり接点のない自分がターゲットになるのは、恐らく可能性はゼロに近いと判断する。
できれば、このままの状況を持ち続けて欲しいと彼は願った。
「さて、俺は自分の席に戻るかな~。部長に言われた仕事を早く終わらせなきゃいけねえし。」
池垣は、天井に向かって背伸びをする。
時計を見ると、13時を回っており昼休みは間も無く終わろうとしていた。
「終わらせるのは良いが…お前のデータ、最後までバックアップできてなかったぞ?」
「えっ!?嘘!てか、何で知っているんだ!?」
「コーヒー取りに行った時に少しな。仕方ないから、時間もないし見てやる。一緒に行こう。」
「若郷…後で抹茶ラテ奢ってやる!」
席を立つ愁次に、池垣は肩に手を回した。
同期の友人と仲良くする愁次、周りに人を集める朝宮。
二人が交流することは、普通であれば皆無に近い。
だがこの時、愁次は朝宮と関わることになるとは全く知らなかったのだった。
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