愁次と朝宮さん

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その次の日の朝、ミーティングが終わって自分の席の戻ろうとした時。 「朝宮さん、ペンケース落としましたよ!」 「あっ、すみません。ありがとうございます!」 すれ違った時に、紫のペンケースを愁次の前に落とす。 この時は、愁次も違和感を覚えなかった。 しかし、ここから彼も気づき始めることになる。 また次の日も。 「朝宮さん、ヘアゴム落としましたよ。」 「あっ、ごめんなさい!」 二階から三階への階段の踊り場ですれ違った時。 更にその次の日も。 「朝宮さん。メモ帳!」 「はっ!私、何しているのかしら…。」 給水室ですれ違った時。 その更に次の次の日も。 「朝宮さん、プリントが落ちましたよ!」 「朝宮さん!」 「ファイル落としましたよ!」 「朝宮さん、これ!」 「シャーペン落としてますよ!」 「朝宮さん!」 「朝宮さん、ポケットから!」 「朝宮さん!グミが目印みたいに落ちてる!」 「朝宮さん!」 「朝宮さん!」 「朝宮さん」と「落ちましたよ」を連呼して一週間。 愁次の喉と腰は仕事とは別の所で疲れ切っていた。 あの落とし物を拾ってからどのぐらい連呼したのだろう。 すれ違うたびに発生する朝宮の落とし物イベント。 ゲームで例えるなら、これはバグに過ぎなかった。
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