愁次と朝宮さん

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定時の時間に仕事を終えられたのは幸いだった。 愁次は、約束の通り朝宮と共に誰もいない会議室に場所を移した。 いつもは厳かな雰囲気を纏う部屋だが、改めて人がいない姿を見ると新鮮に感じる。 窓からオレンジ色の夕陽の光が差しており、その光は二人の間を照らしていた。 「それで、お話したいことってなんですか?」 朝宮は首をかしげながら愁次に訊ねた。 「朝宮さん。」 すると、愁次は彼女を真っ直ぐ見て気になっていたことを口に出した。 「何で、俺の前だけ物を頻繁に落としたりするんですか?」 「えっ?」 彼の問いに朝宮はポカンとする。 そんな彼女に関わらず、愁次は話を続けた。 「偶然ならわかるけど、一週間で毎日一回はどう見てもおかしいですよ。朝宮さん、あの日俺が落とし物を拾って以来、俺のことを見つけてはすれ違って物を落としていますよね。それを知りたくて、今日ここに呼び出したんです。」 朝宮が、何を考えて自分の前に物を落としているのかを知りたい。 愁次は黙り込む彼女が答えるのを待った。 と、その時だった。 「う…ううっ…。」 「え?」 朝宮は顔を俯かせ、肩を震わせ始めたのだ。 愁次はハッと我に返る。 これはもしかして、泣かせてしまったのか。 愁次は慌てて言葉のフォローに入った。 「ああっ!その、怒っているわけじゃなくて!ただ、理由が知りたかっただけで―」 「ごめんなさい!!!」 突然、朝宮は大声を出して愁次に頭を下げてきたのだった。 急な出来事に、愁次はポカンと目を丸くする。 「…えっ?」 目の前には頭を下げる朝宮。 一体、どういうことだ? 何が起きたのか、一瞬分からなくなった。 朝宮は、下げていた頭をゆっくり上げる。 彼女の表情に、愁次は驚いた顔を浮かべた。 目の前には、頬を真っ赤に染め、目を潤ませた可愛らしい朝宮の顔があったのだ。 朝宮は、顔を少し俯かせながらポツポツと話し始める。 「凄く迷惑だった事は謝ります…。けど、どうしても若郷さんと話すきっかけが欲しかったんです!」 「…へ?」 彼女の言葉に、首を傾げた。
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