愁次と朝宮さん

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愁次と朝宮さん

若郷愁次(わかごう しゅうじ)、26歳。 彼には気になる女性がいた。 名前は、朝宮結子(あさみや ゆいこ )。 愁次とは広告会社の同期で、一緒の部署に勤めている黒髪を伸ばした清楚な女性だ。 彼女は一見、大人しく目立たない印象を残すが性格は全然違う。 朗らかで相手に気遣う優しさを持っており、笑顔も可愛らしい。 おまけに仕事もできて、上司からの信頼は厚かった。 そんな彼女の周りには、常に人が集まっている。 「朝宮さん、お昼一緒に食べない?」 「朝宮さん、この化粧品どう思う?」 「朝宮さん、今度飲みに行こうよ!」 男女問わず、彼女を誘う者の数は絶えなかった。 「朝宮さんも大変だな…。」 朝宮を囲う人だかりを横目で見ながら、愁次はコーヒー缶を片手に自分のデスクへと戻る。 あんなに囲まれて、疲れないだろうか。 愁次には人気者の気持ちは分からなかったが、朝宮のことは少し違うように感じた。 彼女の整った横顔が、どこか疲れているかように見えたのだ。 「若郷。何、朝宮さんの顔をじっと見ているんだ?」 愁次のデスクに、同じく同期の池垣が寄ってきた。 彼は、愁次と朝宮より一つ年上であり、明るい茶色のツンツンとした髪が特徴だ。 「いや、人気者は凄いなと思っただけだ。」 「あぁ…でも、あれは異常だよな。」 池垣は、少し引いた目で朝宮を囲う者達を見る。 ざっと数えてみると、七人ほどいた。 しかし、外から見ても相当な圧迫感はあるに違いない。 自分が朝宮の立場だったら、絶対耐えられず席を立ってしまうだろう。 だが、それでも彼女は優しい笑顔で一人一人の顔を見て話をしているのだ。 「あれは…聞き上手のプロの顔だ。」 「えっ?」 愁次の独り言に、池垣は首を傾げた。 彼の呆けた顔を目の当たりにし、愁次は「何でもない。」と咳払いをする。 「けど…あんだけの奴の中に囲まれてたら、男の一人や二人はいるだろうな。」 「え、朝宮さんって彼氏がいるのか?」 「違う違う。いるだろうなっていう話。…あ、そうだ。あの噂が本当だったら可能性はあるな。」 「噂?」 愁次は池垣に聞き返した。 すると、彼は愁次の耳元に口を近づけ小声で話す。
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