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停学中の《のっぺりとした暇さ加減》から散歩に興じた俺は、近所の公園のベンチにただぼんやりと座っている女子がいることに気がついた。
黒のダッフルコートから伸びるスカートはうちの高校の制服、ショートカットの黒髪に雪のような白い肌、小さくて頼りない身体とその顔に大きな黒い瞳を飾り、それを縁取る濡れ羽色のまつげ。白と黒のコントラストが際立ち、そして置物のように表情を変えず、そこに存在するのが仕事かのようにただ座っている。
冬月柊。
クラスメイトの冬月で間違いない。
「……でもまだ授業がある時間のはずなんだけど」
級友(話したことなんてない)がただ公園にいるだけならば特別気にならない。しかし、十二月中旬の公園はとにかく寒いし、それは我慢できたとしてもいまは午後二時半。普通は授業中の時間なのだ。
停学中の俺がよそ様の心配をしているのも微妙な感じだが――、クラスメイトの女の子が学校をサボって、公園のベンチにひとり座っているのはやはり目を引く。しかも観察するに読書をしているわけでもスマホをいじっているわけでもなさそうだ。なにをしているのかは一目にはわからない。ひたすらにぼうっとしているように見える。
加えてなぜだかきょうの冬月にはひとりぼっちのくせにシャボン玉が割れるような儚さというよりも、活火山に咲いた一輪の花のような激しさがある。彼女はいつもだいたい無表情。それはいまも例外ではなく眉一つ動かさないのにそんな気配が感じられるのは一体どういうことなのか。
本当、なにをやっているのだろう。
……でもまあ。
別に仲良いわけじゃない。もともと冬月は誰とも話さないタイプだ。彼女の周りに引かれた排他的経済水域をわざわざ犯す必要もない。というわけで、公園の外から遠巻きに眺めるくらいが妥当な線引きなのである。
それにしても、寒い。
身動きひとつしない冬月を見ていたらこっちまで身体の芯から冷え込んできた。彼女の我慢強さに脳内拍手をしつつ、俺は帰路につくべく身を翻す。
そうだ、きょうはコンビニでおでんでも買って家に戻ろう。大根と卵が食べたい気分。みんなが勉学に励んでいる時間に家の炬燵でコンビニおでん――最高。
などという心の声が確率の神様の反感でも買ったのだろうか。きょうに限って、その王道の二品目は品切れだった。
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