アメリカ留学 1

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 雷亜はぐっちょりと濡れたネルシャツを摘み、困った様子で自転車から下りた。 「派手にやられたなあ、大丈夫か?」  突然バイクに乗ったラッパー風のアジア系男性に話しかけられた。 「あ……、は、はい」  首筋から刺青がチラリと見え、思わず唾を飲み込む。目を覆うサングラスで表情も分かり難いせいか、ちょっと怖そうな人だった。 「悪りぃなあ、あいつらうちの学校で調子に乗ってるバカどもだ。今度、機会があったら仕返ししといてやるから、今日の所は許してくれ」  見掛けとは違い、声の調子は親しみやすい感じだった。  少し緊張が緩み、雷亜は傷のない左側の髪の毛をかき上げ愛想よく微笑んだ。 「大丈夫です。すぐに乾くと思うし」  日本に居たときも、こういうことはよくあった。雷亜を馬鹿にしたり、苛めてくる奴はどこにでも居た。ここにも、そういう奴が居た。だだ、それだけのことだ。 (──気にしない、気にしない)  雷亜は波立つ感情を平常心に戻すため、頭の中でそう唱えた。しかし、その思惑に反して感情の波は突然跳ね上がった。  男性がいつの間にかバイクから下り、雷亜の襟首を掴んだのだ。  サングラスをかけた顔がぐっと近付き、雷亜の顔を覗き込む。殺気はまるで感じないから、被害を受けることもなさそうだが、訳が分からず体が少し汗ばんだ。 「な、なんですか?」  恐る恐る訊ねるも男性は何も言わず、雷亜の髪の毛を鷲掴みにした。雷亜の、ひっ!と言う声と、男性の、うわっ!って言う声が重なる。 「お前、これ……、事故かなんかか?」  顔の傷の事だろう。 「は、はい」 「いいなあ」  何故だかすごく羨ましいがれ、雷亜は戸惑った。意味が分からず茫然とする。 「その顔、めちゃくちゃいい!」  ──え?この顔が???   雷亜は首を傾げた。  目の前の男性はかけていたサングラスを頭の上にずらし、優しく微笑んだ。 「服、濡れちまってるだろ。俺のブルゾン貸してやるから脱いで」 「え?お借りして、いいんですか?」 「いいって、いいって」  男性が黒地に白のラインの入ったブルゾンを慌ただしく脱いで、雷亜に差し出す。  通りすがりの人にお借りするのも悪い気がして断ろうと思ったが、風が吹くと濡れた服のままではやはり寒いので、雷亜はお言葉に甘えることにした。  シャツを脱いでブルゾンを受け取ると、男性は、ふごっ!と奇妙な声を上げて仰け反った。 「??」  口許を押さえて、地面を蹴りながら奇妙な動きを繰り返している。  雷亜は眉をひそめた。 (何をしているんだろう?)
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