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再会 2
朝から心配していた通り、学校内での雷亜の身分は一目でNerdと決定された。
教室で最初の授業を受ける前に、近くに座った大人しめの男子生徒に、勇気を出して自己紹介をすると、登校中に見かけたあのポンパドール・ツーブロックのいきった男が偶然脇を通り過ぎ、雷亜の名を耳にした。
「うっわ!お前、嘘つきって名前なのかよ!信じらんねぇ!友人にはしたくねえ名前だよな!」
と、オーバーなリアクションと共に大声で笑った。その声に合わせて教室中が一斉に沸き立ち、「名前が〝嘘つき〝とか本当かよ!」「最悪だな」「ひでえ名前」と笑う声があちこちで聞こえた。
雷亜は反論しようとしたが、脇に立ってこちらを見下ろすポンパドールの視線を感じると、その威圧感で俯く事しか出来なかった。
こいつが脇に居たら、きっと何を言っても雷亜の言葉は無効化される。
こちらを見つめる鷹のようなグレーの瞳は間違いなくスクールカースト上位者の目だ。
雷亜はそんな奴にいきなりラベリングされたのだ。
雷亜は唾を飲み込んだ。
こいつのラベリング一つで、ここに居る生徒と雷亜の間に見えない壁が作られた。
雷亜は項垂れたまま、午前の授業を終えた。結局、誰とも話すことが出来なかった。
(やっぱり俺は何処に居ても孤独になる運命なのかなあ……)
トボトボと一人食堂に向かって歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれ振り向いた。
「あ、宇辰」
宇辰も授業を終えて学食に向かうところらしかった。
「よお!雷亜、初日の感想はどうだ」
「うん。まあまあ」
と、答えたが、ポンパドールの言ったことがまだ尾を引いていて、声のトーンは少し落ちていた。
登校中の道すがら、雷亜は宇辰に自己紹介をした。
宇辰も初めて雷亜の名を聞いた時、大層驚いた顔をしていたが、直ぐに『漢字表記はなんて書く?』と訊いてくれた。喜んで説明すると、『雷に亜ぐ、か、いい名じゃん』と、微笑んでくれた。ちょっと変態ちっくだけど、その笑顔を見ると、宇辰が優しい人なのは間違いなかった。
今朝は宇辰がそんな風に言ってくれたから、人と話す勇気が沸いた。
それなのに、ポンパドールのせいで、全てがおじゃんになった。
そう思うとポンパドールに対する憎悪がふっと沸いてきたが、宇辰に声をかけられた切っ掛けも、ドリンクをぶっかけたポンパドールのお陰だった。
(そう考えると、人生は何が切っ掛けで、どうなるか分からないのだから、安易に人を恨んじゃいけない
人を呪わば穴二つ掘れだ。腹が立つけど、ポンパドールの行いはもう忘れよう)
雷亜は頭を振って気持ちを切り替えた。
それよりも隣を歩いてくれている宇辰の存在を大切にしようと思った。
「宇辰……、こんな俺を気にかけてくれて有り難う」
雷亜が笑顔で礼を言うと、宇辰は少し頬染めて、気にすんなよ、と言ってくれた。
留学初日は雷亜にとって悪いことばかりではなかった。
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