僕の落としたモノ

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 僕の名は三角御結。  「さんかくおむすび」と書いて「みすみみゆ」だ。  人類史上二番目、大山のぶ代に続く一人称が「僕」である女だ。  今夜ももっぱら湾岸スキーヤー。  等間隔で並ぶ照明灯を後方に溶かしながら、夜明け前の首都高湾岸線をかっ飛ばしていた。  助手席に座るのは相棒のジェシー。  パツキンワンレンボディコンの誰もが二度見以上をかましてしまうイケイケギャルだ。  今日もマクロスフロンティア並みの肩パッドが僕のドライビングを邪魔する。  時折、コンバーチブルからはみ出た肩パッドが走行風に揚力を得て、ジェシーを宇宙(ソラ)へ持っていこうとするが、シートベルトのおかげで事なきを得ている。  僕は本田宗一郎先生に心から感謝した。  もっとも本田宗一郎先生がシートベルトの生みの親かどうかはググってない。  その時、空想の世界でカニを食べ、終始無言だったジェシーが口を開いた。 「くぱー。」  本当にただ口を開いただけだった。  親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている僕の座右の銘は「ギリギリでいつも生きていたい」だった。  だから、高尾山にある果樹園帰りの湾岸線を、蜜柑をたんまり積んだホンダ・シティ・カブリオレでいかに早く卸売り市場へたどり着けるかをアタックするのは、僕にとっては運命(さだめ)であり業(カルマ)だった。  だから、カーブで落とさなかった。  スピードを。  そして、命を落とした。  情熱(パッション)に惹かれて業(カルマ)に従って、まとめて言うと、パロマ(給湯器)に身を委ねただけだったが、僕はここまでのヤツだったらしい。  ハードラックと踊(ダンス)っちまったぜ…。  ガードレールをぶち破り、激しく空を舞うカブリオレ。  その刹那、僕の目には、何故だか全てがスローモーションに見えた。  僕は最後にとジェシーの方を見た。  通じ合うようにジェシーも僕の方へ顔を向けていた。  目があった瞬間、クマドリ無しで歌舞伎のメイクの口にならないかと挑戦し、終始無言だったジェシーがその口を開いた。 「くぱー。」  ただ開いただけだった。   ーおわりー
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