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「悪いな。昔のことを蒸し返して。いつからと聞かれたから正直に答えた」
「……まさか、だから採用したんじゃないですよね」
「だったら幻滅するか?」
一瞬考えて
「いいえ」
と、わたしは首を振った。
「高卒だし、苦労しましたから、理由がどうでも十分ありがたかったです」
彼は笑って言う。
「まあ、さすがに俺の趣味で勝手に採用出来るほどの権限はない。採用されたのは前の職場で長く真面目に勤めてきた春ちゃん自身の実績だ。そこは自信を持ちなさい」
「……はい」
「さて、……そういうわけだから、俺としてはこれからも引き続き部下として働いてもらいたいんだが……この家に隠れてたって生きてる気がしないだろうしな」
「……すみません」
「気にしなくていい。その歳で生きた屍になるのはまだ早い。……となると、副業の問題をどうするかだが」
「……けど、それはもう、無理じゃないですか」
「副業禁止なら、辞めて他を探すしかないから、か?」
「……仰る通りです」
「やっていける方法はあるだろう」
独り言のように彼は言った。
「要は、副業でない手段で、足りない分の生活費が補えればいいだけの話だ」
「……けど……そんな都合のいい」
言ってから、はっと頭をよぎった。
「あたしを売るとか?」
「……誰に」
「いや、課長の仲間の吸血鬼の人とかに。一回いくらで血を売ったり」
溜息混じりに、彼は言う。
「……発想の方向は間違ってないが」
「え?」
「俺が、君を買おう。これから先、君自身の全てと引き換えに、君に必要なものは全て俺が援助する。そういう話でどうだい」
※次回、新章になります。更新は今しばらくお待ちください。ここまでありがとうございました。
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