ある日の家畜と吸血鬼

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「それは別に好意とかじゃなく、円滑な業務のために必要かと思ったので。会計課の水橋は愛想が悪いなんてなったら、課長に迷惑が掛かります」 「そんな迷惑は考えなくていい。いいか。必要以上の愛想は振りまくな。身の安全のためだ。この前だって」 「……それ、課長のヤキモチとかじゃなくてですか?」 「っ……あのなあ!」 「いや、分かってますけど。恋人とかじゃなくて、課長からしたらセックス込みの家畜みたいなものだっていうのは。それでも他人に手出されるのは嫌なのかなっていう」 「嫌だ。……死ぬほど吐き気がするほど嫌だ」 って唇ねじ曲げて見下ろされると、吐き気がするほどわたしが嫌われてる気分になる。  大人げないことに気付いたのか、課長はひとつ溜息をついて言う。 「あのな、春ちゃんの価値は」 「あたしが今までバリバリの処女でキスもしたことなくて課長しか知らないからですよね。だから、他の人が手出すと血の味も変わるし価値が落ちるし、やっと見つけた貴重な家畜が居なくなって困るってことですよね」 「……そんなことは言ってないだろ」 「違うんですか?」 「それなら、最初から首輪でもつけて外界と接触絶って家に閉じ込めとけばいいことだ。その方が春ちゃんだって苦しいことから逃げられるだろ。……そうしないのは、春ちゃんの意向もあるし、俺はそういう春ちゃんが」 「首輪でも家畜でも十分です」
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