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なるほど。姫子さんなら有り得そうだ、いや、やっぱりその言葉は胸の奥底に閉まっておく。
「そんな、姫子さんに限って……」
反対の言葉を心の引き出しから出す。
「いや、姉貴は昔から甘い言葉で言い寄ってくる男に弱いんだよ。何度かそういう事あるんだ。……その時は母さんが謝りに行ったりとか……あったんだ。」
もうすでにあったのか。
「だから、また……まさか、とはおもうけどな」
「でも、今は内縁とはいえお相手もいる事だし……。早とちりじゃない?」
「うん。それならいいんだけどな」
凛子は正直こちらに何も損を被ることがないのならばどうでもいいと思った。姫子さんが浮気をしていようがなにをしようが、ただ、嵐がこちらに来なくなったことだけは有難い。
以前のように来ては掃除がいき届いているかどうかをチェックかれるのはたまらない。
「それよりもね、聡。今度のお宮参りの事なんだけど……」
凛子は話を変えた。
「うちの実家も呼んでいいの?」
「うん。そうしてくれ。凛子のお母さんに抱っこして欲しいんだ。……幸人のこと」
生まれた子供に『幸人』と聡たち夫婦は命名した。
幸せな子になって欲しい、また、幸せを与えられる人になって欲しい。いたってシンプルな発想だ。
「嫁の実家の母親が抱っこしてお参りするのがこちらの土地のしきたりなんだ。…田舎臭いだろ?」
そう言って聡は白い歯を見せて笑った。
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