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圭ちゃん……下向いてろ。
向坂の兄貴に顔を見せるんじゃない…。
早坂の願いは圭に届かない。
応接室に通すくらいなのだから、事務所の大切なお客様なのだろう。顔くらい覚えておかないといけないと、圭は向坂の顔をじっと見つめていた。
向坂の視線が圭に向いた時、向坂がニヤリと笑ったのを早坂は見逃さなかった。
向坂の兄貴は……圭ちゃんを見に来たんだ。
確信めいた考えが早坂に浮かぶ、
政宗が夢中になっている恋人の話を、どこかで聞きつけて見に来たのだろう。
まずいな……。
跡目争いで遅れを取っている向坂の兄貴が、ボスを引きずり落とすのに圭ちゃんを使う気かもしれない……。
「お茶はあの若い男の子に持ってこさせてくれ」
「いや、あの子は……」
「早坂、いいな?」
「…………はい」
圭にお茶を持ってこさせるよう指示すると、向坂は満足そうに応接室に入って行った。
早坂はがしがしと頭を搔いてから、圭の元に行って応接室にお茶を持ってくるよう頼んだ。
「圭ちゃん、お茶を置いたら直ぐに部屋から出て行くんだ。分かったね?」
「あの方はどなたなんですか?」
「ボスにとっては敵みたいなもんだ。圭ちゃんに本当は近付けたくないんだが、俺じゃ止められないんだよ」
政宗さんの敵みたいな人……。
あまり関わってはいけない人なんだな。
政宗さんの足を引っ張らないようにしないといけないな。
圭はそう思いながら、給湯室でお茶を淹れると応接室に向かった。
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