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「あの……頬、これで冷やした方がいいと思うので……良かったら使って下さい」
高校生くらいだろうか。
色素の薄い瞳に明るめの髪色の小柄な少年が、颯馬に濡らしたタオルを差し出している。
女みたいな顔をしているな……。
原田圭に対する颯馬の最初の印象はその程度だった。圭から黙ってタオルを受け取ると、颯馬は少し熱を持った頬にタオルを当てた。
颯馬が頬を冷やすのを確認すると、圭はぺこりと頭を下げてカウンターの奥に戻って行った。
ここのバイトか。
何度かこのカフェには来たことがあるが、初めて見る顔だ。
カウンターからこちらを見た圭と目が合うと、圭はにこっと笑って小さく頭を下げてくる。
人懐こい子だ……。
俺と目が合うと大抵の人間は怯むのに。
颯馬は圭から目を逸らすと、手元の携帯を見た。
大量の不在着信。
そろそろ会社に戻らないと、秘書の平田がカリカリしていそうだ。
颯馬はゆっくり立ち上がると、頬を冷やしていたタオルを手に持って圭の方に向かった。
「これ、ありがとう。ご馳走様」
「あ、はい。お大事に……」
カフェの店員からお大事にと言われるのもどうなのだと思いながら、颯馬は軽く手を挙げてカフェから出た。
気持ちを切り替えて仕事に戻らないといけない。しかし、すっきりとした気分だった。
圭との出会いはこれきり。
もう会うことは無いだろうと、午後の仕事をする間にすっかりカフェでの出来事は忘れてしまっていた。
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