きこえる、きこえる。

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きこえる、きこえる。

 マンションの管理人の仕事、と一言で言ってもその内容はピンキリだろう。  どこまでが仕事内容に含まれるかという問題もあるが、一番肝心なのはマンションに住む人間の“質”によって変わるということである。  私がいま勤める場所は、A駅近郊の二十階建てマンションだ。不動産会社から派遣され、交代で二十四時間住民のクレームや要望対応、設備の管理や不備があった時の関係各所への連絡などを行うわけなのだが――以前の勤務地と比べると格段に楽で助かっている、というのが現状なのだった。私は前にも同じ不動産会社からの派遣で別のマンションの管理人と受付対応をやっていたのだが、今のマンションと比べるとかなり酷い状態だったのである。  こんな言い方をするのも良くないのはわかっているが、住んでいる住人のガラが悪いとマンションの管理人の負担は大幅に増えることになるのだ。  小さなマンションだったので、仕事の内容そのものが多かったわけではない。ただ、クレーマーが大量にいた。  小さな駅から少し離れた場所にあるマンションで、地価が安いこともあってかあまり所得の多くない人々が多く暮らす地域であるということもあったのだろう。しかし、それを踏まえてもマンションの住人には奇人・変人が多かった。  例えば、ポスト。そのマンションは、管理人室の真正面の位置にポストのコーナーがあったのである。  そのマンションのポストがずらずらと並んでいるところに、一人暮らしの老人がずーっと立っていたりするのだ。その老人は、長いことマンションの二階に住んでいる人物だった。何をしているのかと思えば、どうにもポストを見張っている様子。時折現れる、パチンコ店や不動産屋などのチラシを配布するポスティングスタッフに気づいては、“許可もなくチラシを入れるな!”と怒鳴り散らして追い返すということをしていたのだ。  しかも、何が面倒ってスタッフを追い返した後で私のところにやってくるのである。あまり年齢がいっていない女性スタッフということで、きっと相当にナメられていたのだろう。彼は口癖のように、いつも同じことを言っていた。 『お前らのような管理会社の人間がしっかりしていないから、俺がこうして見張ってやらなくちゃいけなくなっとるんだ!もう少ししっかりしたらどうなんだ、俺だって忙しいんだぞ!』  忙しいも何も、無職なのは明白であるし、たまの買い物以外に出かけている様子もないのに何を言っているのやら。
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