茶色い帽子

1/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
落とし物をしてしまった お気に入りの帽子を 福袋に入っていた帽子で 使い勝手がよさそうだと思った でも 同じ福袋を買って 同じ帽子が入っていた人は 「これ、使えないよ。いらない」と言っていた 私には いらなくない帽子だった かぶると少し かわいくなれるような気がした サイズがぴったりで どんなに動いても落ちなかった 私のために存在しているような帽子 ずっと使っていた帽子 晴れの日は陽ざしを遮ってくれた 雨の日は水滴を避けてくれた 風の日も頭にずっと乗っていた 歩いていても 自転車に乗っていても 私を護ってくれた ()かしていない髪も隠してもくれたし 大好きな服を買った時は だいたいその帽子が似合っていた そんな帽子を落としてしまった 色も薄くなって ずいぶんとくたびれてきていて でも 私には特別な帽子だった 福袋に入っていた帽子 私が選んだのではなくて 帽子が選んで私のところに来てくれたような気がしていた それなのに 落としてしまった どんなに探しても見つからない 少しくたびれて 流行りでもなくて かわいくなくなったって 思っちゃったのが 伝わったのかもしれない。 まるで 私の気持ちを察したかのように なくなってしまった そんなことないよ 今でもかわいいよ 私にはとっても大事な 大好きな帽子だよ そう思っても 出てこない
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!