遅すぎた恋の話

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 メインテーブル横でスライドショーが始まった。  写真はふくふくの赤ちゃんからスタート。  本日の主役の隣には姉が一緒に写っている。 「小学校、中学校、高校、大学と接点はなく、社会人になった二人」  ドラマチックな展開を予感させる言い回しだ。  出会いは姉の紹介というアナウンスが入る。  実は紹介ではなかった。  たまたま買い物途中にばったり会って、食事をしただけのこと。それでも結婚式では偶然を“運命”と呼ぶ。  ドラマチックの完成だ。  次に新郎のスライドショーが始まる。  新郎の隣には弟が写っている。  彼の第一印象はモテるんだろうな。  誰にでも気さくで親切。その割によく緊張する。緊張すると下唇を噛むクセがあるからすぐにわかる。  真面目で仕事は手を抜かない。同期の中ではダントツ不器用。根回し下手。人の倍仕事を押しつけられる。でもそれさえも楽しめる。  そして仕事中心でフラれる意外な一面…  そんなちょっとした隙みたいなものに女子は弱い。  私もその一人だ。  でも自分が彼にとってそういう対象じゃないことはわかってた。  隙を見せ、心を許してくれるのは紛れもなく信頼。  同期会で「30になってもお互いに結婚してなかったらもらってやるから」なんて冗談が言えるのも、真に受けない私を知っているから言えること。  恋には一番遠い。  だから好きなのに好きといえなかった。  海外赴任が決まった時も、  今も、  この瞬間でさえ…  赤ワインが注がれる。  お肉料理で、その次はもうデザート。
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