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酔いが冷めてきた。
今なら上手い言い訳の一つも浮かびそう。
披露宴会場の庭園の隅でスマホとにらめっこ。
亀が石の上で首を伸ばしている。亀と日光浴。日にあたること自体がずいぶんと久しぶりな気がする。
間違えた、とか?
それなら誰と?になる。
酔っ払ってた。
うん。
ベストじゃなくあくまでベターだけど…
池の水面がキラキラと光っている。風も柔らかい。
「良い季節に生まれたんだね」
突然、膝の上のスマホが震えだす。
「………!!」
彼からの着信。
完全に油断していた分、倍驚かされた。
思わず芝生にスマホを放り出しそうになる。
酔っ払ってたってどのタイミングで言うべきか…
第一声で処理してしまう?
だいたいメールの返事が電話とかそんなのルール違反じゃない?
オタオタしてる間に電話は切れた。
安堵と小さな後悔。
後悔は電話を取らなかったってこと。プラス素直になれない自分に対して。
迷いがある。まだ迷ってる。
この期に及んでもまだ…
また電話が鳴る。
切れても切れてもコールされ続ける。
14時。
向こうは午前3時ぐらい?
普通なら寝てる時間だ。
アメリカは夜中で日本は昼。
彼が朝目覚めるときには日本は夜。
何も知らずに寝てた彼とヤキモキしてた私。
でもこの瞬間、時間の重さが一緒になる。
「はい」
はい、で出てしまった。
第一声で処理できてないし…
『どこ?』
国際電話でも意外とクリアに聞こえることを今初めて知った。
「忘れてる?今日はあなたのお兄ちゃんの結婚式だよ?」
街中で遭遇したのは彼と私と妹だけではない。そこには彼のお兄さんがいた。
『あ、いた』
ブチっと通話が切れる。それと同時に近づいてくる足音。
これは絶対彼だ。九死に一生とはこのこと!亀の向こうに後光が差す。
「あ、ねぇ!あのさ、メールの消し方教えて」
彼の顔には「は?」と書かれてある。面倒くさいって表情だ。
「答えは無理、だよ」
彼の言葉に心臓が止まったかと思った。
「ちょっ…ちょっと、え?メール読んだの!?ここにいるのに?」
私は自宅のパソコンにメールを送ったのに!
急転直下のバッドエンドにはそう簡単に納得いかない。
「転送。それも知らないのかよ。まぁいいや。それはまたおいおい教える。で?なんで泣く?」
「泣いてないよ!」
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