吐き出す言葉に伴う信用と責任。

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吐き出す言葉に伴う信用と責任。

楽しく生きると言ってる人ほど、つまらない毎日を送っている。幸せといっている人ほど、不幸を感じている。 人が吐く言葉は不思議だ。自分の状況を客観的に判断する能力を誰もが持っていないため、言葉と現状には避けられないギャップが生じてしまう。だからこそ自分は幸せだとか毎日楽しいと言っている人はつまらなく見えるのだろう。実際に今の自分に満足しながら毎日生きている人は、自分が今人生を楽しんでいるのか、感じているのかといったことは考えない。失ってからはじめて「楽しかった」「幸せだった」と気づくものである。 人は言葉として吐き出したものをその人の心理だと思って簡単に信じてしまう。中には噓をつく人がいるとわかっていたとしても、仲良くなればなるほど、関係が長くなればなるほど自然と相手への信頼度も増していくものである。でも、主観的な信頼度と客観的な信頼度はイコールではないし、自分が信頼している人を他の人たちはまったく信頼していないこともある。逆もまたしかりだ。 言葉は他人を信用するかしないかの大事な指標になることは間違いないが、だからといって宙に舞っている言葉をすべて信じていいわけではない。世の中には信じちゃバカを見る言葉の塊が溢れているし、よく言われるように言葉は使い方を間違えれば刃物になってしまうこともあるのだ。言葉は怖い。言葉を使う人間も怖い。 人が使う言葉の中に噓が含まれるようになったのは、一体いつからなんだろう?ずっとずっと昔の時代に知能革命が起きて大脳皮質が大きくなって人は言葉を使うようになった。言葉を通して他人とコミュニケーションをとり、大きな動物を狩ったりするときに協力することができるようになった。「お前はそっちから行け。俺はこっちから追い詰める」といった具合だ。 でも言葉を使っているうちに、他人に噓をついて欺くことで得をする人がチラホラと出始める。腹ペコの人が食料を求めたずねてきたときに、「食べ物はなにもない。毎日腹ペコだ。」といいつつも、草むらの中に食料を隠している状態である。こうした噓は自分を守るために役立ち、自分が生き残るために重要な意味を持つようになった。他人に数少ない食料を分ける正直者の心優しい人たちはみんな一緒に死んでしまうのだ。 そうして生き残った人類が我々である。現代人は噓をうまく使える人間の言い残りなのだ。だからこそ人は言葉の中に自然と噓を混ぜる。見栄というのも自分を他人よりも良く見せようとする噓みたいなものである。他人から良く見られると得をすることが多いからだ。これがツイッターやインスタのリア充マウント合戦へとつながっていく。 でも、言葉を信じなきゃ生きていても楽しくない。他人の言葉をいちいち疑ってかかっていれば人間関係に疲れて嫌気が差してくる。噓をつく自分にも、見栄を張る自分にも、綺麗ごとを並べる自分にも次第に嫌気が差してくる。普段何気なく使っている言葉という道具でも、使い方を間違えたり捉え方を間違えるだけで自分や他人を傷つける刃物になる。 言葉を誰かに伝えるときは責任をもたなければならない。「こうすれば幸せになれるよ!」と語っている人が幸せに見えなければただの詐欺師である。虫歯でいっぱいの歯医者さんも、ダイエットしなさいと言うメタボ医者も、育毛を薦めるハゲた床屋の店主も、言葉に責任が伴っていなければそこには信頼もないだろう。言葉を吐き出す人間の生き様が、言葉の力と意味を最大限に引き出すのである。 バンドマンが作る曲の歌詞には想いが込められている。自分の現実を描写していることが多いからだ。お金のためではなく、好きで小説を書いている人の物語にも共感できる部分がたくさんある。作家が物語に自己投影しているからだ。そのほかのスポーツやエンターテインメントといったものにも、自分の生き様が反映しているからこそ、人は共感を抱き、感動を覚え、涙を流すのだ。 言葉は時として人に牙をむくが、言葉は時として人に力を与えてくれる。大切な人からの「ありがとう」の一言で疲れがすべて吹き飛ぶこともある。逆に自分の何気ない一言で誰かを勇気づけたり励ましたり感動させたりすることもできる。言葉は危険だが偉大なのである。 ある意味で言葉は原子力と同じぐらいの力がある。正しく扱えば莫大な利益があるが、扱いを間違えれば大惨事を招きかねない。だからこそ言葉遣いには気をつけなければならず、使い方を間違えば人間関係においてキノコ雲が立ち昇ってしまう。その代償はどこまでも果てしない。 生きてく上で言葉を避けることはできないけど、使い方に気をつけることはできる。どうせなら言葉を人を傷つけるために使うのではなく、誰かのために使うように心掛けていきたい。いつまでも誰かの心に残る言葉。そんな言葉を残していきたい。
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