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義信と信玄の確執
そもそも確執の原因はどこにあるのか。
話は一月前にさかのぼる。
信玄と義信は向かい合い激しく口論をしていた。
三国同盟(甲斐・駿河・相模)の存続についてもめていたのである。
「父上。三国同盟を破棄するとは本当ですか?」
「本当だ」
「それは駿河(静岡県)を攻めるということですか?」
「そうだ」
義信は唾を飲んだ。
駿河の今川義元が桶狭間の戦いで討たれてから今川家は急速に力を失い、同盟国としての意味をなさなくなった。信玄は織田家や徳川家が力をつける前に今川家を切り取りたかったのである。
義信は目を見開き、信玄の目を見据えたまま、まくし立てた。
「父上。お言葉ですが、三国同盟は武田の屋台骨。それを破棄するなどもってのほか」
「屋台骨などとうの昔。いまや今川に力などない。均衡は崩れ、三国同盟はすでに終わったようなものなのだ。妻が気になるか? お前の妻は今川義元の娘だ。今川家に人情でも湧いたか?」
「違います! 同盟国を裏切って攻めるなどすれば天下から信用を失います。このような行いに、誰が着いてきましょう?」
「世迷いごとを。乱世は弱肉強食だ。弱きものを強きものが喰う。自然の摂理ではないか。強さこそが正義なのだ。強ければ誰もが従う。信用とはそういうことではないか? 勝たせてくれる者こそが信用を持つ」
「強さは正義、おっしゃる通りです。しかし、人には心というものがあります。恐怖で支配するだ
「黙れ! やはり人情が湧いたか。心を鬼に徹しきれんものは武田にはいらん。帰れ」
「父上!」
「帰れ!」
二人はそれ以来会っていない。
義信は父の意見に屈する気は毛頭なかった。自分の考えが間違っているとも思わないし、気持ちでは既に父と同格のつもりでいた。川中島の戦いでも武功を上げており自信もついてきている。何より、虎昌という武田最強の槍を持っているのだ。
ーー父上は間違っている。
義信は父と対立することで、より一層強固な信念を持っていった。
それは今も変わらない。
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