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少年は、自転車に跨ると、覚悟を決めたように、最短距離を進むことにした。街灯に近くのは気が引けたが、こちらを進めば、下り坂だった。あくまで安全な速度を保ったまま、街灯へと近づいていく。すると、再び人影は姿を消した。
少年は、周囲を見回すが、人がいるような気配はしなかった。そんな中、相変わらず響き渡る雨音は、再び静寂へと帰る。
『こんばんは…』
坂道を下る途中だったが、ブレーキをかけ、勢いで少し前進したが、その場で停止することができた。
疲労とは違う原因で荒くなる呼吸は、自身では止めることはできなかった。さらに少年は、挨拶をしてくるのが何かを確かめるため、振り向き、声が聞こえた背後へ視線を向けた。
『こんばんは』
目の前には、目を前髪で隠している女性が微笑んでいた。顎から垂れ落ちる血液は、耳から流れてきたものだった。
「うわぁぁぁーーー!!」
少年は、思わず叫び出し、自転車を走らせ始める。安全に気を使っている暇などないと、限界までスピードを出して、下り坂を駆け降りていく。
しかし、その間少年の耳には延々と、あの声が繰り返し聞こえてくる。
『こんばんは。こんばんは。こんばんは。こんばんは。こんばんは。こんばんは。こんばんは。こんばんは…』
「うるせーー!!」
少年は、叫びながら自転車を走らせ続けた。スピードが乗った自転車は少年を坂の下まで届けようとした直前、前輪がスリップして少年は転倒してしまった。
少年は自分の怪我など後回しに、背後を確かめる。そこには、誰の姿も見当たらなかった。気づけば、耳元で響いていたあの声も聞こえなくなっていた。
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