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愛と追憶
微睡みから目が覚める。
貴方がいない――そんな、悲しみだけがわたしを支配した。
夢で会った貴方は、笑ってくれたのに。
冷たく降り注ぐ雨は、わたしのこころ。
別れをリセットするように、懐中時計に手を伸ばす。
貴方との思い出。その全てが詰まったモノ。
――カチリ、カチリ。
ネジを逆巻きにして針を巻き戻す。
ぼんやりとする記憶。夢の中に引き戻される。
ぐるぐると巡る記憶。
優しい貴方のまなざし。
溢れる愛しさに、わたしの瞳から溢れるのは温かな雫。
頬にそっと触れる貴方の手。指先は雫を払い、そのまま唇へ移動する。
胸から込み上げるのは切なさ。
時間が来れば、現実に戻ってしまう。
永遠なんてない。
貴方との、この偽物の時間はやがて崩れていくのに。
わかりきっていることなのに。
何度も何度も巻き戻して、貴方にすがる。
幸せになんてなれないのに。
愛してるすら言えなかった。
そばにいるだけで十分だった。
でも……。
貴方の姿が消える。
現実に戻ったわたしに残るのは悲しみ。
寄せては返す、さざ波のような後悔。
わたしは貴方に恋をした。
その想いは、記憶は、今も消えない。
だから、繰り返す。
――カチリ、カチリ。
懐中時計を巻き戻し、記憶を呼び戻す。
何度でも、何度でも、針を巻き戻して会いに行く。記憶の中へ。
忘れたくない。忘れたくない。
貴方しかいない。
だから、わたしは今日も貴方に会いに行く。
遠い日の記憶を巻き戻して。
それが例え愚かな行為だとしても。
わたしは貴方を求め続ける。
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