8人が本棚に入れています
本棚に追加
母の日記
家の呼び鈴を鳴らすと母がすぐに出て来た。
「まぁ!アルベルト!お帰りなさい」
「ただいま母さん。これ、お土産」
ミィの入った包みを渡すと母は嬉しそうに受け取ってくれた。
「有難うアルベルト。夕飯はまだ食べてないでしょ?お母さん、買い物に行って来るから何か食べたいのある?」
「ギュードンが食べたい」
パウダーという、母が言うにはウシと言う動物に似た味の肉を使ったギュードンって料理が僕は一番好き。
「じゃあお肉を買ってくるわね。家で待っててね」
「うん。気をつけて行ってらっしゃい」
母が外に出ると上の階からさっと影が落ちてくる。
(ゼノンだ)
父の執事であった氷狐族の血を引くゼノンが母の後を追う。父の死後、ずっと首都に一人で暮らす母を陰ながら支えてくれている人だ。
彼がいるから母は出歩いても平気。僕は久々の我が家に入ると自室に向かう。
(昔のままだ)
机と椅子、本棚とベッド。後は僕の小さい頃の宝物やおもちゃが入った蓋付きの箱。掃除の行き届いた綺麗な部屋を確認して安心すると僕は母の部屋に行く。
(確か…)
額に飾られた父の肖像画の後ろを調べると母の日記があった。
(まだ母さん、帰ってこないよね?)
パラパラと母の日記を捲り、最後に読んだ日付から読む。
(…母さん、寂しいんだね…)
母の日記の大半はその日の出来事や僕達兄弟の成長報告を父に伝えるような感じに書かれていた。
…読んでいると涙がポタポタ落ちる。
(しっかりしなきゃ…)
もしかしたら、何か事件に巻き込まれた日があるかもしれないし、例の事について書かれているページもあるかもしれない。
涙を堪え、拭きながら捲っていく。
「……」
ようやく最後のページ。昨日の日付まで読んだが例の事については何も書かれていなかった。
(やっぱり直接聞くしかないか…)
母の日記を元の場所に戻したちょうどその時、玄関が開く音とただいまーと声がし母が帰って来たのが分かった。
最初のコメントを投稿しよう!