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前の二つの房に食事が入った。次に自分の房、上の窓から光が入る。
「食事です」
壁まで下がり、ゆっくりと呼吸を落ち着ける。
まずスキャンを試す。
くっきりとした映像が浮かぶ。
―― できたぞ、自信を持て。
懐中電灯に急に照らされ、顔をしかめた自分の立ち姿がみえた。
―― ひどいもんだ。
あんな風に見えるんだな。
少しは憐みを感じているのか、縁がふるえている。
…… 暑い、ここは臭いな(それはオレも同感)、今日は早く帰れるかなあと3時間で交代、祈祷がなければすぐ戻れる……
スキャンの感覚が、完璧に戻っていた。
これならばできるかもしれない。
しかし今は食事が先だ。
下の小窓が閉じると、残像があるうちに急いで食器に近寄り、パンとスープを口にする。
数秒で食事は済んだ。それでも、ここでいただく最後のディナーだから、ととりあえずはよく噛んでみた。
間もなく、食器の回収がきた。
よかった、さっきと同じヤツだから思考パターンが読み易い。
サンライズはあえてスープの器を後ろ手に隠しておいた。
案の定、看守が硬い声で言う。
「スープのお椀を返してください」
サンライズは、まぶしさの中で目をしっかりと開いて、はっきりとこう告げた。
「金色の縁取りが、みえるか」
かかった。
看守の動きを完全に捕えた。
彼の思念波は、今やサンライズの繰り出した釣り針を心の奥まで呑み込んでいた。
強い曳きに、彼は必死に耐えて次の攻撃をかける。
「金色の縁取りが、見える、オマエの心の中に」
「きんいろ、の、ふちどり」
懐中電灯の輪が少しそれた。暗闇に赤黒い残像がちらついた。
「目の前のドアの、鍵を外して、ドアを開けろ」
効いただろうか?
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