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「清掃します」
次の「洗いますか?」の意味が判らずきょとんとしていると、電灯が下がって彼の腰を照らした。
そういうことか。
「はあ」
と答えると、辛抱強い声が
「じゃあ下ろして」
と言うのでズボンと下着を下ろす。
「手は上に、はい」
いきなり冷水の集中放水を受けて、心臓が飛びあがった。
看守はおかまいなしに、彼の頭から背中から、周囲の壁から水で洗い流していく。
そして次は床を隅から流し始めた。
「一歩右、前向いて」
今度は注意して、前を向く。
眼鏡を押さえようとして、ないのに気づいた。
暗いから無くても全然気にならなかったのか。
冷たい水を口で受け、ごくごくのどを鳴らして飲んだ。
放水が終わろうとしていたので、排水口近くに引っかかっていた排泄物をあわてて手で押し込み、流れてきた水でよく手を洗った。
部屋の奥にいる限り、少しくらい姿勢を変えても看守はうるさく言わないようだった。
急にぴたりと水が止まり、ドアが閉められた。
次は1ヶ月以上先だろうか?
まだ手に匂いがついているような気がして、彼は神経質に何度もぬれたズボンで手をこすった。
―― 次の清掃までに、オレは必ず発狂するに違いない。
彼は座って、心を落ち着けるために目を閉じた。
そっとまぶたに触れ、本当に目が閉じているか確かめてみた。
多分OK。
それでも水をたっぷり飲んで落ち着いた気がする。
ふと、信号が聞こえたので排水口に耳を寄せる。
「ちゃんと洗ったか?」
と聞いていたので、洗った、と答えてから気になったことを聞いた。
「飲み水はどうしてる? 今の水を飲むだけで済むのか?」
信号の主も、同じことを考えているらしかった。
「いざとなれば、自給自足」
―― やはり早く、外に出なければ。
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