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中に踏み込んで、体を担ぎあげる。
自分も一杯いっぱいだったが、相手が思いのほか軽くて助かった。
よろめきながらも、サンライズは彼をなんとか外に連れ出す。
「階段は、どうしようか」
「這ってみる」
すっかり老人のような声だが、ジャカードは腕に力をこめ、それでも何とか階段を上っていった。
もう一つ、残った囚人についてはどうしよう? とりあえず鍵だけ開けておこう、と扉に向き直った。
中はやはり、ものすごい臭気だった。
部屋の片隅に、先ほどのように何かの塊がいた。
「だいじょうぶですか?」
声をかけたが黙りこくっている。
しかし、頭は上げたので意識はあるようだ。
サンライズはライトを頭から外し、少しだけ近づいて顔を照らしてみた。
黒い垢にまみれ、やせこけた顔、長い髪にもつれた長い髭、目の中には、何も表情がない。
スキャンしてみようと彼に触れてみたが、ぱっと手をひっこめた。
心には何も、映っていなかった。虚無だ。
虚無が口を開いた。
「あああああ」ダメ、今はこんなのは受け止められない。
「また来ます」
とりあえず鍵はかけずに、ドアだけバタンと閉めて逃げ出した。
外に出て、まず発信器の電源を入れた。
あれから何日経っているか分からないが、近くに味方が来ていると信じるしかない。
それから、モップと化した同僚の状態を確認した。
やせ衰えてはいるが、表情は力強かった。
「すまないが、世話になる」
まず着替えたい、と言うので看守の詰め所に入る。
おむすびが残っていたので、2人でわしづかみにしてガツガツと呑み込んだ。中身はやっぱりオカカだった。
途中、あっと気がついて一つ手に持ってまた下に走って下りる。
手前の房のドアをそっと開けてから
「おむすび、ここに置きましたから」
一応、声をかけて
「鍵、開いてますからね」
教えてまた上に戻った。すぐに出てくる様子はなかった。
ジャカードは、どうにか上着のジッパーを上げていた。
サンライズも急に寒さを覚え、看守の残してあったジャンパーを一枚羽織った。
「あの、もう1人の囚人は誰か知ってるか?」
ジャカードに聞いたが
「……オレより後に入ったのは知ってるが、誰かは判らん」
多分、まだ日数を数えていた頃なので、自分が清め場に入ってから1ヶ月は経っていなかったのでは、と言った。
「後で助けてもらうしかないか……」
看守詰所の時計を見る。22時を少し回っていた。
「あと2時間くらいで交代だと思う」
サンライズは、詰所の中を家探ししながら言った。
「どこまで逃げられるか……地理に詳しいか?」
ジャカードはずっと黙ったままだった。
眠ってしまったのか、と思って顔をみると、何か考えているような目をこちらに向けていた。
「どうした?」
「テストしたい、悪いが」
来ると思ったよ、サンライズは大きく息をつく。
「どうぞ、早く頼む」
「支部で特務課直属の課長は」
「ノギ」
「特務部の部長は」
「うちのとこは、技術部だ」
わざと間違えているのだろう。
「支部の部長は、ポチ、いやええとスゲさん」
そこまで聞くと、彼はにやりと笑って片手を出して握手を求めた。
「ポチは昔オレのチームにいた。名付け親は、オレだ」
オマエかよ! でも握手する。
「今から資料を隠した場所に案内する」
おむすびを食べたおかげで、前より軽々とおんぶできた気がする。
サンライズとジャカードは、動き出した。
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